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サッカーマガジン 1975年7月25日号
時評 サッカージャーナル

大学サッカーの改革案

もっともな意見
 ある会合の席で大学サッカーのレベルについて議論があった。
 「日本代表チームに大学の選手はほとんど選ばれてないな」
 とだれかがいう。
 なるほど、香港のアジア・カップに行ったメンバーで、大学の現役選手は、中大の石井茂巳君だけである。釜本、小城、横山などベテランが故障でかなり抜け、若手にとってはチャンスだったのに、新たに、大学サッカーから登場してきた人材はいない。
 「でも、日本代表選手になるには、ある程度、経験が必要だからね。年齢的に18歳から22歳までぐらいの大学生が少ないのは仕方がない」
 「そうだな。問題は大学サッカー出身の若手が代表になってるかどうかだな」
 「その点は、ひところよりすこしはよくなってきたけどね」
 数年前ころには、日本代表チームの若手のホープに大学サッカーの出身者がほとんどいなかった。
 いま22、3歳の瀬田、奥寺、高田、永井などは、高校から日本リーグにはいって活躍している選手である。しかも、最近は、素質のある高校生が大学に進むようになり、また大学出の若手も日本代表チームにはいってきている。清雲(法大出)、横谷(法大出)、古田(早大出)、藤口(慶大出)などである。
 ただし、こういう選手が、大学サッカーの力で育てられたのかどうか。そのへんには、問題がありそうだ。
 「大学のサッカー部がたるんでるんだよ。鍛え方が足りないよ」
 「大学の監督、コーチにちゃんとした地位がないのが難点だね。 日本リーグのチームの監督は、ほとんどチームにかかりっきりでワールドカップを、海外出張で見学に行ったりするんだから、恵まれてるよ。それに比べると大学チームの監督は、たいてい他に仕事をもっているOBだからな。週に1、2回、グラウンドに顔を出せればいいほうだ」
 「大学は試合の数も少なすぎるね。関東大学リーグは1部8校。真剣勝負は、秋のリーグ戦で7試合するほかは、あと2〜3試合くらいだ。ここ数年、春の大学対抗戦というのをやってるけど、1部校は練習試合のつもりで、手を抜いてやってる感じだね。ベストメンバーで、真剣な試合を若いうちにたくさん経験しなけりゃ、才能は鍛えられないよ」
 どれもこれも、もっともな意見で、現在の大学サッカーの組織のワク内でも改善しなければならないことがたくさんありそうだ。

大学、会社そしてクラブ
 ところで、ぼく自身の意見は、いささか“過激”である。
 「しかし、いくら努力しても、大学のチームが、日本リーグを抜くことはできないと思うな」
 と、ぼくは考える。
 「結局、大学のサッカー部である限り、選手はふつう18歳から22歳までの4年間しかやれないんだからな。一流のプレーヤーは26、7歳をピークに30歳過ぎまで活躍してるのに、年齢のハンディキャップがあっては強くなりっこない」
 素質のあるプレーヤーは、おとなのサッカーのできる年齢、つまり17、8歳になったら、強いチームの中に入れて練習や試合をさせなければいけない。そうでないと、伸びられるところまで伸びないおそれがある。だから4年生までしかいない大学でサッカーをやるのは、長い目で見ればマイナスではないか。
 「それに、いいプレーヤーの数は限られているんだからね。それを日本リーグと大学リーグに分割しちゃって、おたがいに試合をするチャンスが非常に少ないってのは、ばかげてるね」
 「じゃあ、どうすればいい」
 「一つの方法は、大学サッカー部の6年生、7年生を作ることだよ。つまり卒業生もいれた大学のクラブにするんだよ。そして日本リーグと合併して、いっしょに試合をする」
 「だけど、卒業して会社にはいると会社のチームでやるからなあ」
 「あるいは逆に、企業のチームのほうが開放的なクラブ組織になって大学生を入れるという方法もある。勉強は大学で、サッカーは三菱でやるっていうわけだ」
 「そうしたら大学のサッカーはなくなっちゃうぞ」
 「いまのような大学リーグはむずかしくなるな。だけど早慶ナイターのような定期戰は残るよ」
 「どうして?」
 「三菱や日立のクラブでサッカーをやりながら、大学に勉強にきているのがいるだろう。そういうのを集めてチームを作る。早大オールスターというようなもんだ」
 「それじゃ二重登録じゃないか」
 「二重登録だから、大学のほうからは天皇杯なんかには出ない。親善の定期戦の形の試合だけやるわけだ。イギリスのオックスフォード対ケンブリッジの大学対抗戦だって、現在はそういう形になっているんだぜ」
 「――」
 早慶ナイターは、6月7日の土曜日に、国立競技場で行われた。2万3千の観衆を集め、お祭りらしい華やかなムードがあり、劣勢を予想されていた慶大が、がんばって、なかなか楽しかった。
 だけど、技術的、戦術的内容は非常に寂しいものだった。早大チームの中には、将来のサッカーの中心選手に育つだろうと期待されている西野朗君もいる。その西野君に、こんな試合をさせていていいんだろうか、と心配になった。大学のサッカーは、やっぱり、なんとかしなくちゃいけない。


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