アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 1974年11月号
牛木記者のフリーキック

●長沼監督は辞任すべきか
 「長沼監督は日本代表チームから身をひくべきだ。そのことをぜひサッカーマガジン誌上に書いてもらいたい」
 という人がいる。自分のチームが負けると審判の悪口をいい、ひいきのチームが負けると監督、コーチを非難するのは、スポーツの世界の常だから、すこしもびっくりすることはない。よくあることである。意見があるなら自分の名前で堂々と投書するなり、協会あてに意見を具申すればいい。ぼくを憎まれ役に仕立てようとするのはずるい。 
 テヘランに行って見たわけではなくて、テレビで日本−イスラエルの試合を見ただけだが、アジア大会での今回の日本サッカー・チームの戦いの内容は、そう悪くなかったように思う。もちろん予選リーグ敗退という期待はずれの結果には、ぼくも失望したし、長沼監督、平木コーチも、弁解の言葉はないと思う。しかし、イスラエルとの試合は、作戦的には日本もなかなかよくやっているようにテレビでは見えた。1点をとられたあと反撃に出た裏側をつかれて結局3−0になったが、1点差でも、負ければどうせ失格、という状況での試合だったから、捨て身の反撃にでて大敗したのはやむをえない。内容的には1−0の試合である。このイスラエルが銀メダルをとり、日本と引き分けたマレーシアが銅メダルだったから、見方によっては日本もベスト4級の善戦だったともいえる。 
 もっとも長沼監督の進退は、このようなアジア大会の一つ一つの試合内容とは別の問題ではある。アジア大会の不成績を機会に、日本代表チームの指導陣として、長沼−平木のコンビが最善であるかどうかを、日本サッカー協会が考え直してみる必要はあるだろう。
 問題の要点は、1年後に迫ったモントリオール・オリンピック予選に勝つ体制を作りあげることである。 
 長沼−平木のコンビが最善でないことが明らかだったら、協会は首を切るのに遠慮すべきではない。ヘタにお目付け役などを加えるなどの小細工をするのは。百害あって一利なしである。最も適任な人を、礼を厚くし、破格の高給を払ってでも迎えて、全面的に任せるべきだろう。 
 逆に長沼−平木コンビが最善という結論に達したのなら、そのことを全国のサッカー支持者の前に明らかにして、長沼−平木によるオリンピック予選勝利を目ざして、全面的なバックアップをすべきである。 
 外野席からの雑音などに耳をかす必要はすこしもない。

●日本のサッカーを強くする法
 「日本のサッカーは、なぜ強くならないのかね」
 とよく聞かれる。テヘランのアジア競技大会で、成績が悪かったためである。
 日本のサッカーを強くするには、次の三つのことを同時にしなくてはならない。第一は現在の日本代表チームを鍛えることであり、第二は若い素材を発見して育てることである。そして第三には、全国から若い選手が次から次へと生まれ育ってくるように、日本のサッカー全体の体質を改善することである。
 ぼくの見るところでは、日本サッカー協会は、第一の代表チーム強化に、もっとも力を入れて努力しているように思う。協会のある役員が「代表チーム強化のためだ、といえば、たいていの希望は理事会を通る」といっていた。選手強化のために、ナショナル・チームを1カ月にわたってヨーロッパに送り、ワールドカップを見学させてやるなんてことは、他のアジアの国では、なかなか真似のできない“ぜいたく”である。残る問題は代表チームを構成する選手の質と努力であり、また監督、コーチの指導能力である。
 第二の若い素材を育てることについては、方法が二つある。一つはジュニアやユースの選抜チームを編成して国際試合の経験を与えることであり、もう一つは、コーチの質を向上させるだめに、研修会を開いたり、コーチの海外留学の世話をすることである。
 ここで考え違いをしてはならないのは、この問題に関して、協会が直接やれることには限度がある、ということである。なぜならば選手を抱えているのは、日本リーグや大学リーグに加盟しているそれぞれのチームであって、一人ひとりの選手を管理し、育成するのは、主として各単独チームの権限であり、責任だからである。だから三菱の森や古河の清雲を“協会の費用”でイギリスに留学させたのなんかは、筋が違うと、ぼくは考えている。単独チームの海外遠征や選手の研修留学について、協会ができるかぎりの便宜をはかってやるのは結構だが、費用まで負担してやることはない。
 さて、それでは、単独チームがそれぞれ自分勝手に選手を育てて、おのずから日本代表チームで使えるような素材が出てくるだろうか?
 そこが問題である。高校チームは高校選手権で勝つことばかりを考え、大学チームは大学リーグで勝つためだけに選手を鍛える。それでは国際的なプレーヤーは出てこない、という意見が出てくるに違いない。
 しかし、だからといって大学チームや高校チームを非難してもかいのないことだと思う。こういう状態を根本的に解決するためには、どうしても、第三の「日本サッカー界の体質改善」が必要だと、ぼくは考えるわけである。

●新財団法人の実力
 サッカー協会がやっと念願の公益法人になって、9月の下旬に「財団法人日本サッカー協会」の発足披露パーティーがあった。協会の社会的責任はますます重い。しっかりやってもらいたいと思う。
 公益法人になったからには、組織もしっかり整え直し、事務はとどこうりなくきちんとやっているだろうと、世間の人は思うだろうが、実情を紹介すると、実はまったく、あべこべで最近の事務の停滞ぶりは、ひどいものである。その典型的な例が、9月下旬に行われた日韓サッカー定期戦だった。
 8月下旬に協会に電話をかけて翌月のスケジュールをきいたら「大きなものは何もありません」という。そんなはずはない、日韓定期戦があるはずだと思ったから、しつこく追求したら、女の子が電話口で、口ごもっている。「ははあ、これは口止めされてるんだな」とすぐわかった。
 国立競技場は9月28日を、ちゃんと日本サッカー協会の名前で押さえてある。韓国の方にも、9月28日にしたいとちゃんと通報している。そんなことは、こっちは商売だから調べればすぐわかる。かりに何かの都合で確定していないのだったら「9月28日の予定で準備しています。韓国側からまだ承諾の返事が来ないので確定しておりませんが、よろしくお願いします」ぐらいのあいさつはできそうなものである。なるべく早く報道関係にも連絡してPRしようという精神はすこしも感じられない。まったく、おざなりである。
 ところがそのような連絡の不手ぎわは、外部に対してだけではなかった。試合のわずか3日前に発表された出場メンバーを見ると、日本代表チームの中に、古田、高林、石井などの大学選手が入っていない。学生選抜の日韓対抗のメンバーは、日本側は関西の大学選手だけで編成されている。それもそのはず、日韓定期戦の当日に、関東大学リーグは西が丘サッカー場で試合をやっているのだから早大や中大は選手を出せないわけである。 
 聞いてみると、協会が、日韓定期戦の予定日を学連に知らせなかったために、日程の繰り合わせがつかなかったのだそうである。定期戦の日が確定したときは、もちろん大学リーグの日程は決まったあと。「なんとかしろ」と協会はいったらしいが、リーグの日程は、そんなに安直に変更できるものではない。財団法人の実力、かくのごとしである。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ