クラーマーの提案
先月号に、サッカー協会の組織を改革しなければならないという話を書いた。クラーマーさんの意見を軸にして書いたのだが、そのときには、クラーマーさんの立場を傷つけないようにと思って、あまりあからさまには、クラーマーさんの意見を出さなかったつもりである。
ところが、クラーマーさんは、さすがにプロフェッショナルである。彼は、限られた時間をフルに使って、日本のサッカーに影響力を持つと思われる人に、つぎつぎに会って、自分の考えを説いたらしい。
ぼくたちのような報道関係者にも、ひとりひとり話をした。もちろん長沼、岡野、平木といった愛弟子たちにも説いた。協会の役員たちにも、直接、話をした。
その結果これなら実現の可能性があると見込んで、まとめたのが、日本を去る前の晩に、日本蹴球協会の常務理事会で出した爆弾提案だと思う。
提案内容の一部は、スポーツ新聞にも出ていたが、要するに協会の中に、それぞれ委員会を作って仕事を分担させ、若手の人材を登用し、組織的に仕事をさせよう、ということである。
「世界中、どこの国の協会でも、こういうふうにして仕事をしている。やってないのは日本だけ」
というわけで、クラーマーさんにとっては、これは“爆弾”でもなんでもない。当たりまえのことを、当たりまえに提案したに過ぎない。
提案五つのポイント
まとめ
クラーマーさんは、いろいろ、こまかい点まで配慮して、意見をいい残して帰ったが、ぼく自身がきいた話、ほかの人を通じてきいた話を総合してまとめると、主要なポイントは、次の五つになるように思う。
@新しい日本代表チームを作ること
日本のサッカーは昨年の10月、メキシコ・オリンピックのときは、アジアのN0.1だったが、いまでは、NO.5くらいである。ミュンヘン・オリンピックでよい成績をあげるためには、いますぐ新しい代表チーム作りを、はじめなければならない。
A新しいユースチームを作ること
現在のように、その場限りの高校選抜でアジアユース大会に参加しているのでは、絶対に勝てないし、効果も少ない。他の国が20歳以下で出場しているのに、日本だけが18歳以下で出るのも適当でない。ユースの編成を考え直さなくてはならない。
Bコーチ組織を確立せよ
優秀な選手であるとか、サッカーの知識をたくさん持っているとかいうだけでは、よいコーチとはいえない。コーチは、自分でやってみせることのできる技術を持ち、しかもスポーツの基礎になる科学とサッカー理論を学んだものでなければならない。そういうコーチを教育し、試験をしたうえで資格を与え、これを適切に配置しなければならない。
Cリーグ組織を拡充せよ
いまの日本リーグは、なるべく早い時期に、10チームないし12チームにふやさなければならない。
数多くの選手に、日本リーグ級の試合を経験させることによって、選手層を厚くすることができる。
そしてリーグ組織を整備拡充し、すべての若く、才能ある選手たちが、よい試合を経験する機会を与えられるようにすべきだ。
D協会の組織を作れ
以上のような、いろいろな目標や事務的な仕事を、能率よく進めていくために、いまの日本蹴球協会の組織は、根本的に作り直さなくてはならない。現状のままでは、日本のサッカーはこれ以上伸びない。委員会に仕事を分担させ、権限を与え、若くて有能な人材に仕事をさせ、それを総合していくような組織にしなければならない。
日本はもうダメか
ざっと以上のような項目だと思う。先月号に書いたものと合わせて読んでいただければ、推察はしてもらえると思うが、クラーマーさんの実際の主張は、もっと激しい調子の、手きびしいものである。
実をいうと、ぼく自身は、クラーマーさんが、以上のような意見をいい残して帰ったあとも、暗い気持ちになっていた。
「日本のサッカーは、もうダメだ。」
と思っていた。
というのは、クラーマーさんの考え方が協会の人たちに、あまり切実に受け取られていない、外国人にあんなことをいわれても、なにを、必ず日本のサッカーをよくするぞと、意気込んで仕事をしようというけはいが、見えなかったからである。
「日本には、日本の事情がある」
これが、ある役員の反応第一声だった。
こういうネガティブなことばは、もう十年来、聞きあきている。
クラーマーさんが、期待している若手のグループさえも、「とりあえず技術指導委員会の中だけでも、なんとかしよう」という考えで、技術指導部内の分担と計画を決めたときいている。
しかし、先月号に書いたように、この改革は、技術指導のワク内だけの、狭い視野で処理してもらっては困るし、また、それだけでは解決のしようのない問題なのだ。
前途に明るさ
その矢先に、サッカーマガジンの企画で、本号に掲載されているインタビューを日本蹴球協会の副会長である篠島秀雄氏(三菱化成社長)とすることになった。
そして篠島さんの話をきいて、前途に光明を見出したような気持ちになった。
インタビューの記事は、一問一答の形式になっていない。
実は、こちらで質問を用意していったのだが、質問をはじめる前に、篠島さんは、40分間にわたって、サッカーの話を続け、しかも、その中に、こちらが質問しようと思っていたことの回答がすべてふくまれており、しかも、財界で非常に多忙な方であるにもかかわらず、蹴球協会の役員の中のだれよりも、的確に、日本のサッカー界の問題点とクラーマーの心配のバック・グラウンドをつかんでいるように思われたのだ。
篠島さんは、東大がサッカーの王座に君臨していたころの名選手であり、財界では若手のホープとして認められている。
ある週刊誌で、日本のトップの財界人ベスト100人をあげて批評してあるのをみたら、篠島さんについては「決断力100点」とあった。
この決断力が、日本のサッカー界のためにも、発揮されるように期待したい。
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