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サッカーマガジン 1967年6月号

サッカー戦国時代を占う三つの鍵 
 日本リーグに戦国時代がやって来た

 「広島で行われている東洋工業と三菱重工の試合は、前半三菱重工が1−0でリードしています」
 ことしから登場したうぐいす嬢の場内アナウンスがきこえると、スタンドが「ワーッ!」ときた。
 4月9日の日本サッカー・リーグ開幕日。東京駒沢競技場の古河電工―八幡製鉄の試合のときである。グラウンドでは、昨年2位の八幡が古河にリードされている。
 「ことしのサッカー・リーグは、すごい激戦になりそうだな」
 「東洋、八幡、古河、三菱のうち、どれが優勝するか分からなくなったね。日立やヤンマーが上位を食うことだってあるし……」
 スタンドでは、こんな会話が、かわされている。
 東洋工業が負けているというアナウンスでスタンドから歓声がわく ―― 数年前のサッカー場では考えられもしなかった光景だ。むかしの観衆は、おとなしかった。他人ごとのように、お高くとまって試合を観賞するような態度だった。
 いまは観衆も選手も、いっしょになってフィールドにとけこんでいる。
 「サッカーは大衆のスポーツなんだから、こうこなくっちゃいけない。それにしても、ことしはサッカー戦国時代、おもしろいことになりそうだな」
 スタンドの歓声をききながら、こう考えた。

スポーツ人気三つの型
 スポーツの人気とは、ふしぎなものである。予想もしなかった形で、ブームがくる。しかし結局は、内容のあるものを大衆は、見のがさない。
 スポーツが人気を集める型を、分類してみた。
 @スーパーマン型 女子バレーボールのニチボー貝塚が、連勝を続けてきたときのようなのが、これだ。絶対負けないという信頼感が、愛国心や愛郷心と結びつく。逆の立場からは、いつ倒れるかという興味がある。しかし一度 “巨星墜つ” ということになると、再び人気回復するのは容易でない。プロレスの力道山が倒れたあと、ジャイアント馬場をヒーローに仕立て上げたようなわけにはいかない。
 A好敵手型 六大学野球の早慶戦、かつてのプロ野球の巨人−阪神戦など、双方のファンがチームへの無条件の愛情を示し、それが人気をささえている。一方が弱くなれば、内容が人気にともなわなくなるけれど、ファンの支持は、力を盛りかえすための支えにもなる。
 B戦国時代型 群雄割拠。どの組合せをとっても好勝負ということになれば理想的である。しかし、どんぐりの背くらべでは、なんにもならない。全体のレベルが、一般より一段と高くなければならない。スーパーマン型なら、たとえ相手が弱い場合であっても、連勝記録自体に興味をつなぐことができる。また好敵手型なら、盲目的なファンの愛着が一時をしのいでくれるだろう。戦国時代型では、“試合内容の充実” がファンを引きつける絶対の条件である。
 さて、日本サッカー・リーグの場合、東洋工業が、圧倒的な強さを続けて、昨年に続いて、3年連続優勝をなしとげれば、スーパーマン型の人気が出てくるに違いない。
 また、八幡製鉄が、昨年の二つの対東洋戦のどちらかでもモノにして、東洋の王座をおびやかしていれば、好敵手型の人気が形作られる可能性もあった。

リーグを占う三つの鍵
 だが、3年目の序盤戦をみると、日本リーグの行く手は、サッカー戦国時代のようである。そして、その成否を占うには、三つのカギがあると思う。
 
◇第一のカギ
 第一のカギは、東洋と八幡が落ち目かどうかだ。
 戦国時代の魅力が、全体のレベルの高いことにあるとすれば、2年間1、2位を占めた東洋と八幡の実力が低下して戦国時代になったのでは、マイナスである。
 東洋工業の下村監督は、「戦力は昨年より二割増だ」という。それだのに第1戦で三菱に土をつけられたのは、なぜか。
 雨の泥んこ試合がたたったには違いない。昨年日立に連勝をストップされたときと、同じ条件である。記録によれば、この試合が左サイドの桑田のシュート0、松本が1、これは小城4、岡光5にくらべてアンバランスだ。
 昨年日立に負けたときも、同じ傾向の数字が出ている。
 泥んこでパスがつながらないとき、桑田−松本ラインの地力の弱さが出たのに違いない。戦力 “ニ割増” の公約を守るには、ここらあたりが課題といえそうだ。
 八幡は逆に寺西監督が「戦力は一割増だ」という。佐伯の退社があり、第1戦は古河に完敗したが、それほど力が落ちているはずはない。宮本輝はますます巧くなっている。主将の渡辺に、ぐいぐいチームを引っぱっていく気迫があれば、控え選手がいないとはいえ、レギュラーのうち7人が日本代表候補なのだから、実力ずい一のはずである。
  
◇第二のカギ
  第二のカギは東洋に土をつけた三菱の強さは、ほんものか、どうかだ。
 このチームが、実力を身につけるのも、また東京一の人気チームになるのも、後期になってからのことだと思う。
 杉山は「森が中盤に入って、パスが足もとへ足もとへ吸いつくような気がする」といっているが、新人の森、大西、瀬木谷がフル回転するには、もう少し時間をかけてみなければならない。
 それに、優勝をかけると思われる三菱−東洋、三菱−八幡の好カードの東京の試合は、ともに後期にまわされている。杉山の足がさわやかな秋のシーズンに、駒沢のスタンドをわかせるに違いない。
 三菱がほんものかどうか。それは秋にためされることになる。
  
◇第三のカギ
  第二節の豊田−鋼管を見るため、刈谷の駅に降りたら、うしろからぽんと、肩をたたかれた。
 ふり返ったらヤンマーの古川前監督だった。ヤンマーは前週にエース釜本の活躍で、豊田織機に逆転勝ちしたばかり。
 「豊田は、けっこう強いですよ。ゆだんできないですよ」
 古川監督は、こういった。
 「われわれ下位チームにとっては、ことしの日程は序盤戦が星のつぶし合いですからね。はじめに勝っておかんと、話になりませんわ」
 刈谷の試合は、これもひどい泥んこで、リーグ新加盟の日本鋼管が、予想外の、しかしみごとな初白星をあげた。オープン攻撃からの大きなパスが、小気味よく合っていた。「これで鋼管が自信をつければ、リーグのお荷物にならないですむね」
 と、これは記者席のささやきである。
 下位チームが、上位チームをおびやかすだけの力をつけて、戦国時代を盛りあげるかどうか。これが第三のカギである。 


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