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続・サッカー列島改造論 (2/2)
(サッカーマガジン1972年11月号)
 


スポーツ・クラブの条件

 プロとアマチュアの話ばかり、長々とし過ぎたようですが、私はなにも、いますぐ仙台や甲府に、プロ選手のいるスポーツ・クラブを作ろう、といっているわけではありません。日本では、サッカー列島改造のためのスポーツ・クラブは、アマチュアだけでスタートするのが順当だろうと思います。ただ、すでに西ドイツなどにお手本のあるスポーツ・クラブの実情を紹介し、プロ選手をふくむクラブさえ、地域の市民生活に根をはやしたものでなければならないというサッカーのあり方が、地域開発ム日本列島改造にふさわしいのであることを、知っていただきたいと思ったのです。

 地域のスポーツ・クラブを育てるために必要なものが三つあります。それは施設と組織と会員(メンバー)です。芝生のサッカー・フィールドがあり、プールがあり、体育館があり、クラブ・ハウスがある。そこに専任の指導員(コーチ)がおり、管理人がいる。市民たちが会費を払ってメンバーになり、クラブの中でチームを作ったり、レッスンを受けたり、個人で練習したりする。それがスポーツ・クラブです。

 施設がない ―― と日本ではいいます。そうでしょうか。私はそんなことはないと思う。
 地方の拠点都市、つまり県庁所在地のような都市に行ってみると現在ではどこへ行っても、2万人くらい収容できる陸上競技場と、かなり大きな体育館があります。市民プールのあるところも増えています。サッカー場のある都市は、まだ少ないようですが、これもしだいに整備されてきているようです。

 「あれは県や市のものでね。公共的な施設ですからスポーツ・クラブには使えませんよ」といわれたことがある。“考え方を変えよう” というのは、そこです。スポーツ・クラブはその地域の市民のためのものですから、当然公共性のあるものです。「公共施設を特定のメンバーだけのクラブの専有物には出来ない」ということを聞いたこともありますが、市民ならだれでも入れるクラブにすれば、そんなことは問題にならないと思います。各地にある県営競技場、市営体育館、運動公園などをひっくるめて、そこに"市民スポーツ・クラブ"を作るべきです。

 大きなスタンドを持った施設はそんなにたくさんはいりません。現在でも陸上競技場は、2万人くらいのスタンドを持っているところが多い。これでさし当たりは十分でしょう。ただ、地方の陸上競技場は、砲丸投げやヤリ投げのピットが、フィールドに食い込んで、サッカーが出来ないようになっているものが多い。これをサッカーにも使えるように改装する運動を各地で起こすべきです。

 ナイター施設は、ぜひ欲しいと思います。イギリスのサッカー場にあるような四隅照明の設備がいい。こういうようなことについて蹴球協会は、もっと研究し、指導し、キャンペーンを起こすべきです。

 組織作り ―― この中には “考え方” と専従の職員の必要性と財政の三つの重要な問題がふくまれています。“考え方” については、すでに話しました。スポーツ・クラブは、プロ選手をふくむものでさえ、地域の市民のための公共的なものでなければなりません。したがって、必要であれば地方自治体、つまり県や市の援助があるのは当然です。

 クラブには、専従のコーチや職員が必要です。この点についてはまだ日本ではアマチュアの手弁当主義が幅をきかせていて、専門家の力を借りる習慣がついていませんが、それでも県営や市営の競技場にコーチを配置するところが少しずつ増えてきました。これをスポーツ・クラブの組織と、どうとけ合わせてゆくかが、これからの課題です。

強いチームを作ろう

 財政の問題 ―― スポーツ・クラブを運営するお金を、どこから調達してくるのかこれは大きな問題です。

 地域のスポーツ・クラブは、公共的なものですから市や県の援助があって当然ですが、これは施設の建設、維持、管理の方に主として向けられるだろうと思います。

 クラブの運営費に、競馬、競輪などの公営事業の益金をもらうことは、当然考えられることですが、議論の多いところですから、ここでは触れないでおきましょう。

 ただ、西ドイツ、イタリアなどではサッカーくじ (トトカルチョ) の益金が、こういう方面に使われていることを指摘しておきましょう。

 会費は、もちろん取らなければなりません。クラブは不特定多数のものではなく、限定されたメンバーのものです。メンバーシップ (会員制) で、会費をとり、クラブの施設と組織を利用させるのです。「受益者負担」というわけです。しかし、公共的な性質のスポーツ・クラブで、そんなに多額の会費を徴収することは出来ないでしょう。

 4、5年前に西ドイツから “ボルシア・メンヘングラッドバッハ” というサッカー・チームが、日本に来たことがあります。このメンヘングラッドバッハは、人口25万人の小さな都市で、来日したチームは、その都市のスポーツ・クラブのチームです。このクラブは会員2千人で、サッカーのほかにハンドボールと卓球をやっており、2万人収容のスタジアムを持っています。25万の都市の典型的スポーツ・クラブです。

 このボルシア・メンヘングラッドバッハの会長さんと理事2人がチームといっしょに来日したので、一席設けて「スポーツ・クラブを成功させるには、どうしたらいいか」とその秘訣をきいたことがあります。

続・サッカー列島改造論2 そしたら、その3人が口をそろえて「まず強いチームを作ることだ」というのです。おなじみのクラーマー・コーチからも、同じように「スポーツ・クラブは、強いチームを作ることからはじめなければ成功しない」という言葉をきいたことがあります。

 西ドイツでは、強いチームを育てれば、入場料収入もふえるし、市民もクラブに身を入れて応援するようになる。会員もふえる。したがって、強いチームを作ることが、スポーツ・クラブを成功させる道なのです。

 「日本じゃあ、25万都市でサッカーの試合をやっても、そんなにもうからないよ」という人がいるかも知れない。いまのところはその通りでしょう。

 だが、たとえば甲府クラブ (甲府は19万都市です) が、ヤンマーといい勝負をするくらいの強いチームになり、釜本を地元に迎え撃って、2万人の観客を動員することは、そう大それた夢ではないと思います。1人300円の入場料で1試合600万円の収入です。

 地元の市民チームの試合なんだから、市長はじめ市民こぞって応援し、地元のマスコミである山梨放送や山梨日日新聞も全面的に協力する。同じようなことが、札幌でも、仙台でも、長崎でも出来る。それがサッカー列島改造の目標です。

 この夢を実現させるためには、こまかいことでも、いろいろ解決しなければならない問題があります。たとえば入場料収入やテレビ権利金の収入は、地元チームのものにすること、企業中心、学校中心の選手登録制度を社会体育振興のためにクラブ中心の登録制度に変えること、地域のマスコミ諸企業が地元のクラブを援助しやすいような態勢を作ること、などです。

 長くなりましたから、こまかいことは省略しますが、ここに私が述べたような考え方や将来への展望に、反対でも賛成でも、ご意見のある方は、ぜひ聞かせていただきたい。みんなで力を合わせて、サッカー列島改造の方法を考えようではありませんか。田中首相の日本列島改造論に反対の人でも、サッカー列島改造には賛成してもらうようにしようではありませんか。(了)

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