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さあ、いよいよ本番だ!! オリンピック・アジア地区予選 
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(サッカーマガジン1967年10月号) 

 

 百三万燭光の照明に映し出されて、国立競技場の緑の芝生が、あざやかに浮かびあがっている。
 「1ヵ月あとには、ここでアジアの若者が白球を追うことになるのだが……」
 一瞬ぼくは目の前の芝生に、メキシコ予選のサッカーが展開されているような幻想に襲われたが、現実には、芝生を取りまく赤いアンツーカーの上で、別のスポーツがきびしい勝負を争っていた。
  “大学生のオリンピック”として開かれたユニバーシアードの陸上競技1万メートルで、日本の沢木啓佑選手が金メダルをとった。そのレースを見ながら、日本のサッカーが、メキシコ予選を勝ち抜くときの姿を想像したのである。
 沢木選手の勝ちっぷりは良かった。はじめにアメリカのネルソンとイギリスのマレーが意表をつくスパートをし、沢木選手は20メートルくらい離されたが、あわてなかった。400メートルのトラックを25周する。その間に先頭集団は9人から5人になり、3人になり、最後の2周では2人になった。
 沢木選手は、ネルソンのうしろに、ぴったりついていった。残り200メートル。いらだったような表情のネルソンは一気に引離そうという誘惑を制し切れなった。その出ばなをついて沢木選手は貯めていた力を爆発させて勝負に出た。
 あとはスタンドの拍手、歓声、バンサイ。日本代表チームが駒沢でブラジルのパルメイラスを破ったときと同じ騒ぎだ。
 タイムは29分0秒。日本記録よりも悪い。だが、ぼくは新記録よりも勝負に勝つことの方が重要だと思う。タイトルを取ることの方が大切だと思う。日本のスポーツ・ジャーナリズムは、勝負の副産物である記録に重きを置き過ぎるようだ。


タイトルマッチに勝負の真髄

 メキシコ予選を迎える日本のサッカーは、沢木君のように冷静で勝負強くあって欲しい。
 日本代表チームは、ことしソ連のオリンピック・チーム、全英アマチュア選抜を迎えて互角に戦い世界一流といわれたブラジルのプロ・チーム“パルメイラス”から輝く金星をあげた。
 しかし、これらの試合は国際親善試合であってタイトル・マッチではない。
 タイトルをかけた試合には、親善試合にはない勝負のきびしさがある。世界一流のプロにも勝ったのだから、アジアのアマチュアなら軽い――と考えたら大間違いだ。
 陸上競技でも、気楽な親善競技会で世界記録を出すことより、オリンピックで勝負に勝つことの方がはるかにむずかしいといわれる。相手は時計ではなく、人間なのである。
 まして人間と人間がぶつかりあうサッカーで、お互いに傷つき傷つけ合うことを避ける親善試合と、タイトルを目ざして、あらゆる手段をつくす試合の差は、想像以上に大きいのではないか。
 日本のスポーツファンは、相手が白人であり、世界一流の肩書きを持っていると、無条件で感心するが、アジアの選手には、はじめから興味を示さない傾向がある。だが白人相手の親善試合と、アジアを相手の真剣勝負と、どちらにスポーツの真髄がみられるだろうか。
 メキシコ予選の見どころとしてぼくがまっさきにあげたいのは、このことである。
 胸を借りるつもりの試合ならば記録だけを目標にすっ飛ばす陸上選手のように、思い切りぶつかっていってもいい。
 だがタイトルを争うメキシコ予選では、あなどらず、恐れず、沢木選手のように冷静に勝負どころを見つめながら、戦いを進めていくべきだと思うのだ。

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