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高橋祐幸のブラジル便り・目次
 

高橋祐幸(たかはし ゆうこう)

ブラジル・サンパウロ在住。1933年岩手県生まれ。1960年にブラジルにわたり、日本商社の現地法人(三菱商事)に35年間勤務。退職後ボランティアでトヨタカップ南米代表実行委員を15年間務め、川崎フロンターレ、大宮アルディージャのブラジル代表顧問を約8年間務めた。県立盛岡中学(旧制)で、八重樫茂生(メキシコ五輪銅メダル日本代表キャプテン)と同級生だったことがサッカーに携わる機縁ともなって、日本にもブラジルにも広いサッカーの人脈を持つに至った。


 

 


#12
W杯便乗値上げ、やりたい放題
国内移動便と宿泊費の高騰

★またまたブラッター会長の低姿勢
 W杯開幕まで150日を切らんとする時点で、ブラジルW杯の(12球場のうち)6球場の工事が遅れていることを痛烈に指摘批判したFIFAブラッター会長の新年インタビューに対して、ブラジルのルーセフ大統領は「入場券の売り上げは史上かつてない好調で、必ずや大成功の大会になる」とツイッターで国民に伝えた。
 これを受けて、ブラッター会長はFIFA本部で記者会見を開き「ブラジルの球場建設工事の遅れは、たしかに憂慮すべきことではあるが、入場券の好調な売り上げからみても、ブラジル大会が大成功で終わることは間違いない」と、前日の発言を翻して、まるでルーセフ大統領のツイッターに同調するかのような、如何にもブラジルの大会準備遅れの取り戻しを信頼、容認するやに聞こえるソフト発言をした。
 崖っ淵に追い詰められて一歩も後へ引けなくなったFIFAの苦衷をさらけだしたように見受けられる。
 「ブラジルに決定したのは7年も前のことだったので、全ての準備には充分な余裕があった筈なのにこんな前代未聞の遅れになるとは想像を絶すること」とまでブラジル政府の杜撰さをこき下ろしたブラッター発言だったのに、一夜明けたら、一転低姿勢に変わったことは、またここでブラジルに臍を曲げられて(理不尽に)ムクレられたらニッチもサッチもいかなくなって、FIFAの存在・存続にもかかわる一大事になることを心配したからに違いない。
 2020年世界万博にサンパウロが立候補してドーハと一騎打ちなったが、パリの万博事務所は、利権争いに凌ぎを削っている政治利権屋の争いをみて「こりゃW杯の二の舞になっては大変なこっちゃ」と、サンパウロをはずしてドーハに決めた。FIFAは「あのときブラジルに決めなきゃよかったなあ」の溜息ばかりではないかと思われてならない。

★国内移動便の運賃高騰
 日本代表ザッケローニ軍団は、サンパウロから約80キロのSALTO市をベースキャンプに決めたが、予選リーグの3戦はすべて北東、あるいは西方の地方の都市だから、移動には直行でも4、5時間はかかる。
サンパウロの第2国際空港とも言えるVILACOPOS空港(今は旅客よりも貨物空港としての役割が主となっている)に近いので、専用機で移動することにしているようである。
 しかし、同行して来る日本のマスコミ関係者は500人を超え、応援団観客は1万人を超すのではないかとも言われており、その移動とホテルは一体どうなるのかと心配である。
 日本の大手旅行社は、もう1年も前からブラジルに仮事務所を設けて駐在員を配置して動いている。その下請けにならんとする地元の日系旅行社もあり、ボランティアと称して支援を計画している日系団体等々もある。みな一様に困却しきっている状態である。
 まず国内移動の航空券だが、ブラジルの航空会社のチケット販売は、3つのカテゴリーに分かれている。
1.半年前に往復の日/時を確定して予約(前払い)するもの(変更すれば無効になる)。これは通常定価料より20〜40%安い。
2.通常定価料金。ここ2〜3年前頃から値下げ傾向にあったが、それは空席が目立つほんの短い時季だけのことで、バケーションとかカーニバルやクリスマスなど人の移動が多い時季には定額の50〜70%値上げして算盤を合せる。
3.今回のW杯期間中は航空機・パイロット・空港キャパの不足などで非常事態となることを理由に特別高額のチケットを(早い者勝ちで)売り出すと云う販売を既に前年半ばから始めている。
1.は当然売り切れ。
2.は3〜5倍で、これも殆ど売り切れ。
3.は現在予約受付中で7〜10倍とふっかけている。
 入場券の売上げから判断して、どんなに値上げしようが国内便利用のお客さんは減らないだろうと、どの航空会社もタカを括っている。
これを規制する法律がない。
 日本の第3戦の入場券を手に入れた人が、サンパウロから試合会場のクィアバ間の往復チケットを買ったら普段の3倍以上もする1300レアル(5万8千円)、その1週間後に申し込んだ人は2700レアル(17万円)になっていて、それでも泣く泣く払ったと云うから、この分では、ザッケローニ軍団の試合を3会場回って観戦しようとすれば、国内移動費のほうが、日本〜ブラジル往復料金よりも、かなり高いものにつくだろう。
ここでも、W杯便乗のブラジル式やりたい放題の無法が罷り通っている。

★ホテル−ないものはない?
 次にホテル代だが、日本が試合をするレシィフェとナタールでは、既に定額料金の4、5倍に跳ね上がっており、それでも予約が殺到しているとホテル側は豪語しているという。
 もともとホテルの少ないクィアバ市などは10倍出そうが20倍出そうが「ないものはない」と開き直る始末。しかも、どこの市でも1泊客は受け付けず、数泊のパッケージ売りしかしていない。リオでは期間中ひと月の通し予約しか受けないと云うホテルもあるとか。
 日本の旅行社も地元日系旅行社もお手上げで、空を仰いで溜息をついているとサンパウロの邦字紙が伝えている。
 それに続く便乗値上げはレストラン、タクシー代、パン屋さんとお土産屋さんなどである。コンフェデ杯でもミネラル・ウォーター、ビール、清涼飲料、会場で売るお弁当などが値上がりした。
 物価の高騰で被害者になるのは国民の筈なのに、悪徳商人の儲け話が大会の経済効果であると思い込んでいる国民が、そんなバカ話に浮かれているのだから何をか言わんやである。
 日本から来る選手団、マスコミ関係者、応援観客などを歓迎し、ホスト役として便宜を提供せねばと名乗りを上げている個人・団体などもあるが、ボランティアと名乗ってはいるものの、旅行社のサービス・パッケージに組み込んで貰って一儲けをたくらむ輩も多いようである。
 サンパウロから遠く、しかも日系人の少ないブラジル北東部のレシィフェやナタールに、日本からブラジルに来る人たちに身銭を切って協力しようなどと本気で考えている人がいるとは考えられない。これも掛け声で終わるに違いない。
 大交響楽「オ・ブラジル」は、第1楽章「序曲・汚職と賄賂」に始まり、第2楽章「アレグレ・アンダンテ・喧噪と騒乱」、第3楽章「終章ファンファーレ・開幕」と続くはずだったが、指揮者が息切れして頓挫しているのが今現在のブラジルの姿ではないだろうか。


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