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高橋祐幸のブラジル便り・目次
 

高橋祐幸(たかはし ゆうこう)

ブラジル・サンパウロ在住。1933年岩手県生まれ。1960年にブラジルにわたり、日本商社の現地法人(三菱商事)に35年間勤務。退職後ボランティアでトヨタカップ南米代表実行委員を15年間務め、川崎フロンターレ、大宮アルディージャのブラジル代表顧問を約8年間務めた。県立盛岡中学(旧制)で、八重樫茂生(メキシコ五輪銅メダル日本代表キャプテン)と同級生だったことがサッカーに携わる機縁ともなって、日本にもブラジルにも広いサッカーの人脈を持つに至った。


 

 


#11
W杯準備の遅れ
「泥沼はますます深くなるばかり」

★ブラッター会長の怒り
 日本でも報道されたかどうか。FIFAブラッター会長が、スイスの「24時間」と云う新聞の新年年頭のインタビューでブラジルのW杯工事の遅れ・準備の遅れを怒りをこめて非難したと、ブラジルの新聞が大きく伝えている。
 インタビューは正月5日に行われ、翌6日にはブラジルの新聞にもスポーツ欄一面に写真や図解入りで会場となる12球場中半分の6球場の工事遅れを指摘して大々的に報じている。
 ブラッター会長は、自分は1970年から43年間、FIFAで働いてきたが、今回のブラジルのようなW杯球場工事の遅れは勿論、運営機関・団体などのモタつき・ゴタつきの混乱ぶり、杜撰さは、見たことも聞いたこともない酷い状況だとこきおろした。
 昨年の3月に準備状況を視察に来たFIFAのバルキィ専務理事が「尻を叩いて工事を急がせなければブラジル大会は開催不可能だ」と発言したとき、ブラジル側は、言葉尻をとらえて「国家侮辱罪だ」と騒ぎ立て、ブラッター会長をスイスの本部からブラジリアの大統領府の白砂に引き出して、ルーセフ大統領(御奉行様)に頭を下げさせた。そのときに全ての新築(4)、増改築(8)の12球場は年末までに完全落成させFIFAに引き渡すと大啖呵を切ったのだが、それがなんとまだ半分の6球場が遅れていることをFIFAに指摘され、非難された。今回は弁解のひと言も出せずにホホカムリを決め込んでいる。

★各会場の工事進捗状況
 開会式と開幕戦が予定されているイタケィロン球場(サンパウロ市)は、超大型クレーン転倒事故で工事が中断して、年末までの工事進行状況は94%だが、完成予定は4月末と、もっとも完成が遅れる。開幕まで50日を切るかもしれない綱渡り的な日程である。
 クリチバ市のアレーナ・バイシャ―ダ球場の工事進行状況は88.8%で3月末落成の予定。
 日本の第3戦、コロンビアとの試合会場となるクィアバ市のパンタナル球場は90%完了で2月中旬落成の予定。
 ベイラ・リオ球場(ポルト・アレグレ市)は97%完了で2月下旬落成予定。
 アマゾ二ア球場(マナオス市)は94.1%完了で1月末落成予定。
 日本対ギリシャ戦の会場になるアレーナ・ドュナス球場(ナタール市)は100%完了だが、大統領選挙で再選を狙うルーセフ大統領を臨席させて落成式を行うため、1月26日まで待って欲しいと政府の要請がありFIFAへの引き渡しが遅れている。
 以上のような状況で開催年の新年を迎えたが、延ばしに延ばした期限を本当に守れるのかどうか?
 「NINGUEM ACREDITA MAIS」(もう誰も信用できない)事態である。

★工事費予算総額は2兆円
 前年6月、W杯の前哨戦とも云えるコンフェデ杯が行われたマラカナン球場(リオ市)、ミネィロン球場(ベロ・オリゾンテ市)、フォンテ・ノーバ球場(サルバドール市)、ペルナンブコ球場(レシィフェ市)、カスティロン球場(フォルタレーザ市)、マネ・ガリンシャ球場(ブラジリア首都)の6球場は完成しているものの、過去の大会(1998年フランス、2002年日本・韓国、2006年ドイツ)の開催年1月の準備完了度と比較すると、ブラジルの完了度は58%に過ぎないと言われ、開幕が半年後に迫った切羽詰まった時期では極めて危機的な低い完成度ではないかと、ブラジルの報道各社も、今回はこぞって批判記事で政府を攻撃している。「DA UM JEITO」(なんとかなるものさ)が口癖のブラジル人も、今度と云う今度は、多くはうつむいている。
 それでも、ツイッター上では「今回のW杯入場券はかつて例のない売上で世界がブラジルを信頼し期待している証拠ではないか」というつぶやきも飛びかい「とにもかくにも間に合えばそれでいいんでしょ」と開き直る声もある始末。ルーセフ大統領までがブラッター会長への反論の形はとっていないが(むしろ国内の報道陣の批判を鎮めるためか)「W杯史上最高の大会にしてみせる」とツイッターで国民に伝えている。いずれにしても日本の基準からみれば呆れるばかりの無神経な地元の反応である。
 12球場の建設費・増改築費の予算は3兆1千億レアル(日本円で2兆円弱)だと言われているが、国民の汚職監視の目が厳しくなった今では、工事を急がせる追加予算も思うようにはいかなくなっている。
  突貫工事にも問題が多く、見通しにますます霧が立ち込めていて、確かな情報を送れない私も立ち往生である。


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