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高橋祐幸のブラジル便り・目次
 

高橋祐幸(たかはし ゆうこう)

ブラジル・サンパウロ在住。1933年岩手県生まれ。1960年にブラジルにわたり、日本商社の現地法人(三菱商事)に35年間勤務。退職後ボランティアでトヨタカップ南米代表実行委員を15年間務め、川崎フロンターレ、大宮アルディージャのブラジル代表顧問を約8年間務めた。県立盛岡中学(旧制)で、八重樫茂生(メキシコ五輪銅メダル日本代表キャプテン)と同級生だったことがサッカーに携わる機縁ともなって、日本にもブラジルにも広いサッカーの人脈を持つに至った。


 

 


#3
W杯準備「なんとかなるさ」の根拠は?

W杯準備は間に合うか?
 次の文は、2011年の末頃に書いたものだが、その頃はFIFAと世界中のマスコミは「2014−ブラジルW杯の開催準備は間に合うのか」と議論を沸騰させていた。
 しかし「DA UM? JEITO」(ケ・セラセラ、何とかなるさ)という言葉が大好きなブラジル人たちは平気の平左で楽観を決め込んでいたものだ。
 彼らの楽観視は一体どこからくるものかと観察した結果、以下の原稿を書いて日本の或る団体の季刊誌に送ったが「こんなブラジル政府を軽蔑した文章を誌上に取り上げたら とんでもないことになるから」とボツにされたいきさつがある。
 それから約2年後、コンフェデレーションズ・カップが開催された時にブラジル全国各地でデモが発生したが、そのスローガンは、まさにここに書いたサッカー汚職に抗議するものであった。

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「ブラジル式 経済効果」(2011年執筆)
ダ・ウン・ジェイト
 開催まであと2年少しと迫った「ブラジルW杯−2014」は、はたして球場の建設をはじめ諸々の準備が間に合うのかどうかとFIFAをはじめ世界中の関係者をやきもきさせていたが、ブラジル人がよく言う「ダ・ウン・ジェイト」(何とかなるさ)の言葉通り、どうやら全てが間に合うことになりそうである。
 会場となる12都市のうち、サンパウロ球場は開会式と開幕第一試合がおこなわれる予定であったが、喧々囂々の(綱引きごっこ)議論だけが沸騰して、なかなか予算がきまらない。堪忍袋の緒を切らしたFIFAはサンパウロでの開催は不可能の結論(イエロー・カード)を突き付けて、サッカーファン最大人口のサンパウロ州民を驚かせ、パニック状態に陥らせたのだったが、昨年(2010年)末にようやく予算・設計・工期も決まり、予定通り開幕戦が行われることでFIFAとの決着・確認ができた。ブラジル人は「ほれみたことかやっぱり、ダ・ウン・ジェイトになったではないか」と得意げに親指を立てている。
 首都ブラジリア球場はW杯前年に「世界五大陸コンフェデレーションズ・カップ」の会場となることもFIFAの決定事項となっているので、W杯開会式が挙行されるサンパウロ球場とともに、2球場がいま最も急ピッチで建設が進められている。これでブラジルは「世界のサッカー王国」たる面目が保てることが確実となったわけである。
 新たに建設される4球場のうちサンパウロとナタールが開幕半年前の2013年12月完成となる予定だが、他の改造・拡張8球場も合わせた10球場は、今年(2011年)の12月には全て完成することが確実になっている。それへの総予算は56億レアル(約2600億円)で、12球場の観覧席合計は67万人分になる(最大は決勝戦の会場となるリオのマラカナン球場で8万5千人キャパである)。

懐へ経済効果を先取り
 球場はこれで決着がついたが、各都市が予算化を競っているインフラ・ストラクチャー(空港、道路、鉄道、橋梁など)と民間投資(マスコミ施設、ホテル建設、保安・救急施設、公園造成、市街地整備など)は85億レアル(約4000億円)が見込まれているが、まだ最終的な決定はみられていない。
 それにもブラジル人は「まだ2年も先のことだもの土壇場までには必ず何とかなるさ」とのんびりと高みの見物をきめこんでいる。
 何故なら、合わせて7000億円近い公共投資の約3倍にあたる2兆円の経済効果があると獲らぬ狸の皮算用が弾き出されているうちの約20%に当たる4千億円が、政府(大臣、国会議員、州知事、州議会議員、市長、市会議員、その他関係当局の高級官僚)たちの懐を肥やすことになり、それが彼らの思惑通りになれば直に予算も支出も確定して一挙に計画は実行に移されることになることを知っているからである。
 すでに経済効果を先取りして自らの懐を肥やしたスポ−ツ大臣と首都圏知事の二人はあまりに桁外れの巨額だったことと、見逃して貰う筈だった法曹・検察の高官への「お目こぼし」をケチった為にバレてしまい、更迭されてしまった。
 しかし、それに替わる新たな閣僚や高等官吏たちの新たな懐への取り分が加算され、さらに2016年のリオ・オリンピックと2020年のサンパウロ万博からの「ブラジル式経済効果」が権益利得者たちに齎(も)たらされる。それが巨大なものであればあるほど、計画の実現・成功は確実なものとなるのでR(ア−ル)。
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政治家は頭がいい?
 ことし(2013年)11月上旬の日曜日、ブラジルの「お盆」だったので、女房の両親のお墓参りに行って来た。その途中、来年のW杯の開幕会場となるイタケエイラ球場* を見下ろせる道路を通ったので、ちょっと車を停めて覗いてみた。12月引渡しと言われているものの、まだ「とても、とても」の感じだった。
 入札で工事が始まるが、決定した筈の予算では足りなくなって工事が中断されると、政府はFIFAからの警告を受けるまでわざと中断したままに放置しておき、土壇場になって「追加予算を出すが入札無しで新たな業者を指定しないと間に合わないから」と理由をつけて新たに業者を指名する。
  ブラジル人は口を揃えて「なんてブラジルの政治家って頭がいいんだろう。これでまた追加の袖の下が入るんだから」とむしろ羨ましげに笑ってスマシテいるのがホント。


*イタケエイラ球場:
ワールドカップの開幕戦が行われる予定のサンパウロのスタジアム。コリンチャンスのホーム。

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