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◆ビバ!スポーツ時評

ビバ!サッカー観戦日誌(2006/5/17up)

日本代表 1-2(0-1) ブルガリア 
5月9日(火) 雨・曇 大阪長居競技場(午後7時20分〜)  キリンカップ第1日

W杯1ヵ月前のキリンカップ

☆「国際試合の感覚」を取り戻す
 日本代表チームにとって、今回のキリンカップの意味は「国際試合の感覚」を取り戻すためのスタートという以外にはなかっただろう。選手たちはJリーグの試合をずっと続けてきた。1ヵ月後のドイツ・ワールドカップのことを考えれば、国内試合程度のスピードと激しさでは、欧州のトップクラスには通用しないことを、ドイツへの出発前に思い出させておく必要がある。
 1964年の東京オリンピックで日本代表チームを指導したドイツのデトマール・クラマーさんは日本を去るときに「国際試合の感覚」の重要性を説き、日本代表チームを毎年、欧州に派遣して、国際試合の経験を積ませるように言い残した。40年前と違って現在は国際試合の機会は増え、主力選手は欧州のクラブでプレーしている。しかしJリーグの感覚になれた国内組には、国際試合の感覚を思い出させておくことが、とくに重要だった。

☆貴重な経験の2失点
 ブルガリアとの試合では、開始直後に先取点を奪われ、後半に1度は同点にしながら、ロスタイムに入ってから決勝点を奪われた。「立ち上がりの10分間」が大切だとよくいわれる。レベルが上の未知の相手と戦うときは、とくに慎重にスタートして相手の出方を見極める必要がある。それを忘れて、いきなり逆襲速攻で攻め破られた。後方の左から前方の右へ大きく回され、はやいドリブルで攻め込まれた。決勝点は40b近い距離からのフリーキックを直接たたきこまれた。GK川口は反応できなかった。もとになった加地の反則については「相手が尻を向けていたときのファウルでよくなかった」と、ジーコ監督が珍しく、試合後の記者会見で批判した。この失点も最後に慎重さを欠いたためと言えるのではないか。2点とも「国際試合の感覚」を忘れていた失点だった。
 そう考えれば、手痛い目にあったのは貴重で有益な経験だったかもしれない。
 
☆攻めは機動力が生き生き
 日本は守備ラインが浮き足立っている感じだった。しかし、攻めは積極的で、中盤からの機動力が生き生きとしていた。前々日にJリーグの試合があった浦和と鹿島の選手を休養のため先発からはずし、遠藤保仁をトップ下に起用、阿部勇樹が先発した。注目のツートップは、期待の高い久保竜彦が足首の痛みで欠場したので、巻誠一郎が先発して玉田圭司とコンビを組んだ。阿部と巻は「ワールドカップ代表入りはむずかしい」と見られていたが、ともにいいプレーを見せた。阿部はセンスのいいスルーパスを出し、巻はいつものように精力的に動き回った。後半16分から登場した小野伸二も元気だった。しかし、20本のシュートを記録しながら、得点は1点だけ。後半31分、三都主の強シュートが相手ディフェンダーの足に触って抜けたところに巻が走りこんで合わせた。巻は「三都主の得意なシュートを予期して、そのコースに入った」のだという。

[試合のメモ]
(キリンカップ第1戦、 日本 1−2 ブルガリア)

@新聞にあおられてがんばる?
 ワールドカップ代表23人が5月15日に発表されることになっていたので、新聞は「アピール最後の機会」と書き立てた。実際には、ジーコ監督の頭の中でメンバーはすでに固まっているはず。ここでの活躍がものをいうとは思えないが、当落線上とみられる選手たちは、新聞にあおられたかのように、いい動きを見せた。巻、遠藤、阿部、加地亮などのがんばりが目立った。しかし、張り切りすぎて前がかりになり、攻めを急いだのが、シュートが決まらない原因になったのかもしれない。また、立ち上がりに守備陣が裏をつかれて失点したのも、気負って最初から攻めようとしたためかもしれない。
 気の毒だったのは、前半おわりごろ、左ひざを痛めて退場した村井慎二。前十字靭帯損傷の疑いという診断で戦列を離れた。

A久保の欠場申し出はプロ意識?
 得点源として期待の大きい久保竜彦が足首の痛みで出場しなかった。試合後の記者会見で、ジーコ監督は「久保は自分から欠場を申し出た。プロフェッショナルらしい態度だった。この時期に無理をすることはないので起用しなかった」と説明した。前日の練習のときに違和感を覚え、踏み込むと両足首に痛みを感じたという。自分から欠場を申し出たのが、なぜ「プロらしい態度」なのかは、よくわからなかったが、勝ち負けが重要な試合ではないから、だいじをとったのは当然だ。
 しかし、このところ元気のない試合ぶりが目立ちケガも多いだけに、必ずしも「ワールドカップ代表に選ばれることは間違いない」とあぐらをかいていられる立ち場ではない。「巻のほうがいい」という声もあるのだが・・・。

B3バックか、4バックか?
 守備ラインの組み方は、ジーコ監督が、ずっと抱えてきた問題だった。この日はいわゆる3:5:2のシステムでスタート。中盤は福西崇史が守備的に、遠藤が攻撃的に、阿部が中間に位置して前がかりな布陣になり、守備ラインは不安定だった。後半16分に攻撃的中盤に小笠原満男を、中間的ポジションに小野伸二を入れ、遠藤を守備的な位置に移して4バックに変えた。結果的には、後半の4:4:2のほうがバランスが良く、安定していた。
 システムの選択は時と場合によるけれども、ジーコ監督は「4バックが好みだ」というのが一般的な見方である。ブラジルは伝統的に4バックだったからである。日本も4バックを使いこなせるようになってきているのは頼もしい。

Cブルガリアは「仮想クロアチア」
 ブルガリアとの試合は「対クロアチア」を想定したカードだった。ワールドカップのグループ・リーグで対戦する相手を考え、ブラジルを仮想してエクアドルとの親善試合を組み、キリンカップではクロアチアを仮想してブルガリアを、オーストラリアを仮想してスコットランドを選んだ。
 実際の対戦相手と仮想の相手では、レベルもスタイルも同じではない。しかし同じ地域の国のサッカーに共通点が多いのは、スポーツのおもしろいところである。クロアチアは旧ユーゴスラビアの北部で、東欧らしい技術とスピードとチームワークが特徴。旧東欧でもブルガリアは南方系で技巧的な感じがする。「仮想クロアチア」になったかどうか?

 

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