【米国サッカー通信】
ハーフタイムに子どもたちのミニゲーム
〜米国のMLSの運営に学ぼう〜
<文・写真 加藤博久(米国留学中) 2009/5/17>
日本ではゴールデンウイーク中の5月2日(土)、メジャーリーグサッカー(MLS)、LAギャラクシー対NYレッドブルズを見に行った。米国では、フットボール、野球などの4大スポーツに人気で大きく差をつけられているMLSだが、スタジアムではJリーグの今後の成長のためにも参考となる光景が見られた。
◆試合前に子どもたちを紹介
LAギャラクシーの本拠地、ホームデポセンターはロサンゼルスの郊外にある。観客席からピッチまでの距離がとても近い。間近で見られるので、試合に迫力がある。サッカー観戦には快適なスタジアムだ。土曜日の夜、2万7000人収容のスタンドは7割ほどに埋まっていた。
キックオフの15分前、ユニフォームを着た小学生から中学生くらいの子どもたちが次々とピッチの端から端へと歩いて横切った。地元のサッカークラブの少年、少女たちである。クラブ名がアナウンスされるたびに観客席から親御さんたちの歓声があがった。200人近くはいたと思う。子どもたちは、はしゃぎながら、緑の芝生を横断した。
◆ハーフタイムに子どもたちのゲーム
ハーフタイムには、その子どもたちの7分間ずつのゲームがあった。
最初は中学生くらいの少年たちだった。白人、アジア系、ラテン系などさまざまな人種の子どもたちがいる。移民の国、米国らしい光景だ。元気いっぱいにピッチ上を走り回ってプレーしていた。
次は、6歳から10歳くらいまでの子どもたちである。ピッチを半分に区切り、ミニゴールを両面に置いて、左右のコートで2試合が同時に行われた。1チーム15人くらいずつ。女の子も男の子に混じってプレーする。観客席もおおいに盛り上がった。
チーム内でもっとも背が低い子が、スローインのたびに「これはぼくが投げるんだ」と味方の選手からボールを強引に奪い取っていた。また、大人の試合だったら絶対に一発退場であろう後ろからのスライディングタックルを受けても、何事もなかったかのように立ち上がって転がったボールを追いかける少年もいた。彼らの懸命なプレーに観客席も沸き上がる。親御さんは、自分の子どもを撮ろうと真剣にカメラを構えている。
一生懸命にプレーする子どもたちを見ていると、ハーフタイムの15分はあっという間に過ぎた。
ミニゲームが終わると、子どもたちはピッチから備え付けの階段を使って,直接、スタンドに上がって退場した。スタンドの通路側に座っている大人たちは立ち上がって、戻ってきた子どもたちをハイタッチで出迎えた。まるでカップ戦で優勝したチームのようだ。
◆本物のスタジアムで、大観衆の前で
本物のスタジアムのピッチで、大勢の観客の前でサッカーができた。子どもたちにとっては忘れられない経験となるだろう。
子どもたちが着ていたユニフォームはまったく同じデザインで、色が赤と白に分かれていた。主催クラブのLAギャラクシークラブが用意したのだろう。
クラブ同士の対戦ではなく、いろいろなクラブの子どもたちが混ざってチームを編成していた。遊びのゲームなので、難しい戦術やコンビネーションは必要ない。クラブに所属していなくても、たとえサッカーを今までやった経験がなくてもゲームに参加することができる。
◆子どもたちをターゲットに
メジャーリーグサッカーだけでなく、米国では子どもたちをターゲットにしたビジネスが多い。
たとえば、マクドナルドのメインターゲットは6歳くらいの子どもたちと言われている。小さいころに食べたおいしい味は病みつきになるもので、大人になっても忘れることができない。ハンバーガーをしばらく食べないと我慢できなくなり、そのうちマクドナルドに行くのが習性のようになってしまう。米国のマクドナルドの店は、若者だけでなく、お年寄りも多く、混み合っている。コカコーラも同様のやり方で成功したのだと言われている。
◆Jリーグでも大胆なサービスを
ここ数年、Jリーグでは観客の年齢が上がってきている。Jリーグが始まったころにファンになった人たちが、そのまま年をとって、新しいファンがあまり増えないまま、平均年齢を押し上げているのである。
Jリーグの各クラブでも、小学生を無料で招待したり、試合前に選手との写真撮影を行ったり、子どもたちをひきつけるための取り組みは行っている。
しかし、ハームタイム中に子どもたちのゲームを導入している話は、あまり聞かない。芝生が痛む心配があるので、クラブ側が踏み切れないのかもしれない。同じ理由で競技場側が認めないのかもしれない。
日本では、ハーフタイム中に控えの選手がフィールドの芝生の上でウォーミングアップをしている。それをやめて、子どもたちにサービスすることはできないのだろうか?
たくさんの子どもたちがサッカーに夢中になるために大胆なサービスが必要だ。
また、お客さんにとっても、控え選手たちが球回しをしているのを見るよりも、小さな子どもたちががむしゃらにゴールをめざして走っている姿を見る方が刺激的である。
◆サッカー途上国の努力に学ぼう
テレビの衛星中継の発達でヨーロッパのサッカーを見る人が多くなったが、それ以外の大陸にもいろいろなサッカーがある。米国のメジャーリーグサッカーのように、これからファンを増やそうと努力をしているリーグがある。
成長途中という点では、ヨーロッパの伝統ある老舗リーグよりも、MSLはJリーグにとって参考になる点が多いかもしれない。
まずは子どもたちに早くからサッカーをプレーする楽しさを味わってもらい、病みつきになってもらうことから始めるのがいい。大人になっても、サッカーをしていないと我慢ができなくなってしまうように。
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