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◆フリーキック

※これは『日本スポーツマンクラブ会報第108号(日本スポーツマンクラブ 平成18年9月30日発行)』に掲載した記事を転載したものです。


拝啓 日本のスポーツ界 様
素質ある若者を探し鍛えよ
(中条 一雄 2006/10/13)


 世界的名声を博する音楽家は、幼い頃から周囲を驚かせる天才的な才能を必ず持っている。並の人が、いくら死に物狂いでピアノを練習しても、国際的に成功することはありえない。
 スポーツも同じだ。オリンピックなど国際舞台で活躍する人たちは、何かしら特別なものを持って生まれている。「素質」のない者が優勝するのは至難のわざだ。
 こんなことを言えば「素質のない者はスポーツをする資格がないのか」と誤解されそうだが、そんなことはない。スポーツはもともと楽しむためにある。下手は下手なりに、自己の限界に挑戦する面白さがある。
 もし日本が国際舞台で勝利を望むのなら、まず素質のある若者を集め、集中的に鍛えるしかない。第一に「素質」。次いで「環境」「鍛錬」「研究」「経験」、そして、そのすべてを束ねる「精神力」というのが、半世紀以上スポーツ記者をやってきた私の結論である。

 サッカーのドイツW杯が始まる前、私は「イタリア優勝」と「日本は1分け2敗で第一次リーグ敗退」を予言した。いろんな会合で、それを広言し、「お前は、愛国心がないのか」と顰蹙(ひんしゅく)を買っていた。
 ところが、幸か不幸か、二つともピタリと当たってしまった。数少ない理解者の親友が「予想的中」を祝ってビールで乾杯してくれた。
 「イタリア優勝」の説明は、別の機会に譲る。こと日本代表に関しては、率直のところ技力も体力も未熟、勝負に対する執念も足りず、僥倖に頼るしかなかった。
 外国では、19歳や20歳の天才的な選手がどんどん活躍している。日本の若手は、急遽招集した巻誠一郎の25歳だから、かなりのロートル集団だ。また、メキシコ五輪得点王の釜本邦茂以後、素質あるストライカーがいない。本当にいない。
 わずかに才能のある中田英寿は厳しい自己管理のもと、涙ぐましい努力を重ねてレベルを保っていたが、いかんせん峠を越えていた。もうひとりの中村俊輔は、技はともかく、最終的に体力不足が目立った。
 イタリア、スペイン、フランスなど欧州主要国のリーグには、日本代表クラスがゴロゴロいる。東欧、北欧、南米のめぼしいリーグを合わせると、世界に数千人はいるのではないか。それは、欧州に行った日本選手の出番がほとんどないことでよくわかる。
 いまや日本の主要紙のサッカー記者が欧州に常駐しているが、日本選手が途中出場か途中交代させられているのに、その真相を追究した記事を見たこともない。
 それなのに、こぞって「サムライブルー」などと、日本代表をほめまくった。某スポーツ紙のアンケートでは「日本優勝」が7%もいたのだから、ただ事ではない。小泉首相は「日本が決勝に進めば、私はドイツに行く」と言った。選手は皇居に招かれ、天皇から異例の激励を受けた。
 大々的に紙面を使って虚構を報じた新聞、芸能人を動員して煽り立てたテレビ、そのほめ殺しに、大衆は錯覚し、有頂天になってしまった。大袈裟なようだが、私は第二次大戦で、軍部に便乗したマスコミによる世論操作を思い出してしまった。
 いまスポーツ界は、小泉流の「劇場型」が大流行だ。日本サッカー協会の目立ちたがり屋の会長をはじめパフォーマンスばかり目立つ。応援犬まで現地に連れて行った。広報部長はその犬の世話に追われた。次期監督オシム、オシムと宣伝し、禊が済んだと錯覚するのは早い。
 素質のある若者は、大都会に埋もれているかもしれない。田舎の小さな村にいるかもしれない。地道にそんな子どもを、まず探し出すことだ。そこから、すべてが始まる。

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