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サッカーマガジン 2005年11月29日号
ビバ!サッカー

カズのシドニー行きにエール

 カズこと三浦知良がシドニーFCに行った。「ようやるな」と感心する。38歳の新しい挑戦にエールを送りたい。
 出発直前に、NHKテレビのサンデースポーツが特集を組んでいた。兄の三浦泰年が出演してヤストシとカズが子どものときにボールを蹴っていた静岡の公園を訪ねて思い出を語る。そんな場面が挟まれていた。
 番組では、なつかしい思い出として描かれていたが、その裏には兄弟に、つらい経験もあっただろう。NHKの特集は「きれいごと」に過ぎると見た人もいたかもしれない。
 今回のカズのシドニー行きについて、さめた見方も報道されている。
 カズがシドニーFCに行ったのは新トヨタカップ、クラブ世界選手権のためである。12月に日本で開かれるこの大会に日本のチームは出場できない。日本のクラブがアジア代表になりそこなったからである。それでも、なんとか大会を盛り上げようと考えられた作戦の一つとして日本のスターであるカズがシドニーへ送り込まれた。シドニーFCはオセアニアの代表として新トヨタカップに出場する。カズはオセアニアを代表するクラブの一員として、日本で開かれる新トヨタカップに登場する。というわけで、カズは新トヨタカップの「客寄せ」として利用されたのだ、という見方である。
 そういう見方を否定はしない。そうであるにしても、スポーツ商業主義の急流を、たくましく、かつ賢明に泳ぎ抜いてきたカズのサッカー人生に拍手を送りたい。それが、ぼくの気持ちである。
 商業主義そのものを全面的に肯定しているわけではない。商業主義の急流にカズを放りこんだ人たちを支持するつもりもない。そうではなくて、急流に逆らわず、流されず、巧みに、力強く泳ぎぬいてきたカズの生き方を評価したい。
 カズがヴェルディをやめたあと、イタリアに行ったことがある。そのときも、イタリアのクラブが日本のスポンサーが欲しいために、カズと契約したのだという報道があった。
 「それでいい。スポンサーがとれるかどうかはクラブの問題であってカズの責任ではない。カズがセリエAで通用するかどうかだけがカズの問題だ」
 ぼくは当時、そう考えた。今回のシドニー行きも、同じように考えている。
 シドニーFCで、カズは「ゲスト・プレーヤー」である。オーストラリアでは4試合に出場するだけで、新トヨタカップにやってくるのだという。プレーが通用するかどうかはカズの問題だが、客寄せになるかどうかは他の人びとの問題である。


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