青の熱狂が日本列島を､赤の熱狂が韓(朝鮮)半島南部をおおったワールドカップから１年。あの大会で何が変わっただろうか。日韓関係からスタジアムの活用にいたるまで、いろいろ検討してみる必要があるだろうが､まずは､この６月の話題からメディアとの関わりを…。
コンフェデ杯が１面
「うーむ、これも１面扱いか」
６月19日付けの夕刊各紙が配達されたのを見て「当然だ」という気持ちと「意外だ」という気持ちが半今半分だった。コンフェデレーションズカップの試合の結果が、各紙とも１面で扱われていたからである。新聞の１面は総合面といって、その日の重要なニュースが掲載される。ふつうは政治ダネが多いが、スポーツのニュースでも、世間の関心が高く社会的に重要であれば１面扱いになる。
ワールドカップ2002から１年たって、フランスで開かれた大会である。日本は６月18日にサンドゥニで第１戦をしてニュージーランドに３−０で勝った。これが１面扱いになるほど世間の関心度と社会的重要性が高いかどうかには、ぼくにとっては、ちょっと疑問のあるところだった。
コンフェデレーションズカップは、ＦＩＦＡ（国際サッカー連盟）の公式タイトルではあるが、ワールドカップにくらべると歴史も浅いし、世界のサッカー界の関心度もそれほど高くない。
相手のニュージーランドは、欧州のプロでプレーしている選手が主力とはいえ、代表チームとしては、まだ評価は低い。いまの日本なら勝って当然で、ニュースとしての意外性にも乏しい。
ぼくの見た新聞は、関西発行の各紙で、どの新聞も１面扱いだった。ほかの各地ではどうだったのだろうか。関西よりも東京のほうがサッカーヘの関心は高いから、東京版も１面扱いだろうな、と推察した。
ベッカム来日も１面
ソウルで４月に行なわれた韓日サッカーも夕刊の１面扱いだった。そのときに、ちょっと驚いてニュースの価値判断の基準が急速に変わってきているのを感じたのだが、その後気をつけてみると、スポーツのニュース、とくにサッカーが１面扱いになるのは、かなり多い。６月31日に東京で行なわれた日韓戦も、そのあとのキリンカップの試合も、扱いの程度は、いろいろだったが１面扱いになっていた。
仰天したのは、イングランドのデビッド・ベッカム選手の扱いである。マンチェスター・ユナイテッドからレアル・マドリードに移籍金3500万ユーロ（約49億円）で移ることになり、その直後に夫人ともどもＣＭ契約のため来日した。そのニュースが各紙の１面扱いだった。
特に大扱いだったのは６月18日付けの朝日新聞夕刊（大阪本社版）で１面トップである。写真も他紙は顔写真だったが、朝日はロンドン空港で撮影した日本へ向かう夫妻のスナップを大きく載せている。世界の美男美女のカップルだから、新しい写真を紹介すれば読者の関心をひくだろうが、お堅いことで定評のあった大新聞の編集方針が、大きく変貌しつつあるのに驚いた。
ベッカムの１面トップ扱いが「けしからん」というつもりはない。これが１年前のワールドカップの影響であることを言いたいだけである。
ワールドカップの熱狂によって新聞社内の多くの人が、サッカーやベッカムを認識した。それが紙面を変えたのではないかと考えた。
地域との結びつきを
マスコミは移り気なところもあるから、このワールドカップ効果が、いつまで続くかは分からない。
現に関西ではプロ野球の阪神タイガースが快進撃を続けているので、タイガース効果が大きくなってきている。
日本シリーズで優勝したら、関西での経済波及効果は1133億円にのぼるという研究所の試算が１面の記事になった。取らぬたぬきならぬトラぬトラの皮算用である。大阪市は中心部の繁華街にある道頓堀の清掃をするという。ワールドカップで日本が勝ったときにファンが飛び込んだ堀である。タイガースが優勝してトラキチが飛び込むのに備えての清掃かもしれない。
タイガース効果も結構だとは思うが、サッカー・ジャーナリストとしては、ワールドカップ効果を将来に生かすことも考えてみなければならない。
ワールドカップ効果が、日本代表チームやイギリス人のスーパースターにだけ表われるのでは、長続きしないだろう。日本のサッカーの百年構想は、地域に根ざしたクラブの発展ということだから、地域のチームと地域の新聞との関係を考えてはどうか。
サンフレッチェの話題と広島のスター選手の動静が地元の中国新聞の１面扱いになるようであれば本物といえるんじゃないか。同じようにアルビレックスの話題が新潟日報の、トリニータ選手の動静が大分合同新聞の１面扱いになるようだといい。
いや、もうすでに、そうなっているのかな。
|
