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サッカーマガジン 2001年5月16日号
ビバ!サッカー

スペイン戦の成果を考える
守り重視の試みは成功した

 日本代表がスペインに遠征しての国際試合はうーむ、残念というところだった。後半のロスタイムに入ってからの失点で、世界のトップクラスを相手に引き分け寸前までがんばりながらである。でも1カ月前のフランス戦とは違った守り重視の試みは成果をあげたのではないか。

俊輔なしの狙いは?
 「俊輔をはずしたことを、どう思うか」といろいろな人に聞かれた。4月25日夜(現地時間)にコルドバで行なわれた日本代表対スペインの試合の前である。
 ぼくは、試合に使わなくても、スペインには中村俊輔を連れていくのではないかと思っていた。最近の試合では日本代表の中心だったし、2002年には、よほどのことがないかぎり代表メンバーに入るだろう。
 「そろそろ、顔触れを固めていく時期だから、他のメンバーといっしょにいる時間を長くするのがいい」と考えていたからである。
 この考えは甘かった。日本流のチームワーク重視が、頭のなかにこびりついていたのを反省した。
 最近の俊輔が、横浜F・マリノスでも調子が悪い、ということもあったのかもしれないが、トルシエ監督の頭の中には「いつも、いっしょにいて、仲良くべたべたしているのがチームワーク」なんて考え方は、これっぽっちもないに違いない。
 ヨーロッパまで、とんぼ返りで行って1試合だけする。そういう遠征では、考えるのはその1試合のことだけでいい。必要な選手だけを連れていって、試合をするだけで帰ってくる。それでいい。
 「俊輔は代表に戻れないのかね」と心配そうに聞く人もいる。
 「そんなことはない。必要な試合には加える。必要でないときにははずす。相手により、場合によりではないか」とぼくは答えた。
 もちろん、これは俊輔に限ったことではない。

5人による守り
 トルシエ監督が「今度は守り重視でいく。俊輔に守りを7割やれというのは無理」と言っていたのだから、俊輔をはずした意図は明らかだ。
 フランス戦では0−5の大敗を喫した。これはいかん。ヨーロッパの強豪を相手にするときは、守りを固めることからはじめなければならない。スペイン戦ではそれでいこう。
 と、こういうふうに考えたのだろう。フランス戦も、スペイン戦も、ワールドカップに向けてのチームづくりの一環で、いわばテストだからいろいろやってみるのがいい。
 そこで、スペイン戦では、両ウイング・プレーヤーを深く下げて、フラット3と並ぶくらいにした。いわば5人による守備ラインである。
 そのために、これまで左サイドで起用されていた俊輔をはずし、守りがいい服部を使った。俊輔は攻撃に参加し、攻めを組みたてる役を期待されていたのだが、今回は攻めは別の方法を考えることにして、守備重視の方法をとったわけである。右サイドも新しく波戸が起用された。
 中盤の底、いわゆるボランチには戸田を使う予定だったらしい。メンバーもいろいろ試みて、経験させるつもりだろう。戸田が試合当日に体調を崩したために、実際には稲本が出場した。稲本にとっては、手慣れたポジションだから危なげはない。
 テレビで見ていたかぎりでは、トルシエ日本の新しい試みは、成功していた。厚い守りの連係がよかったし、中田ヒデが前の方でつないで逆襲する攻めも悪くなかった。押されてはいたが守り一方ではなかった。

GK川口の活躍
 ゴールキーパーは川口だった。前半の24分ごろから5分ほどの間に、スペインの鋭いシュートを3本続けて叩き出した好守の連続はみものだった。日本の善戦の立役者である。川口は強力な相手に対しても思い切りがいい。それが「球ぎわに強い」守りになってあらわれる。
 「これで楢崎からレギュラー・ポジションを奪い返したな」と思うのは、これも甘いだろう。川口がいいか、楢崎がいいか、これも俊輔の場合と同じように、時と場合と相手によるだろう。
 「日本の選手層も厚くなったものだ」というのが、ぼくの感想である。
 せっかく90分間もちこたえていたのに、ロスタイムになってからスペインにゴールを許して0−1の負けになってしまった。中田浩二が、うまい守りで相手のボールを奪ったあと、前線に出そうとしてパスミスをした。それをすかさず横取りされて攻め込まれたものだった。このレベルの相手には、一瞬のゆるみも失点のもとである。
 「浩二がボールを奪ったあと、日本チームの全員が攻めに出ようと前がかりになったから、逆襲の速攻を食らったんだ。ロスタイムに入ったあとも、ゴールを狙って攻めに出ようとする積極的な姿勢はいいんじゃないか」 
 ぼくが、そういったら友人が反論した。 
 「それも甘いんだよ。状況に応じて緩急自在、柔軟な試合運びができるようでないと世界のトップクラスじゃないよ」


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