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サッカーマガジン 1997年5月7日号

ビバ!サッカー

JALカップを盛り上げるには

 「東のトヨタカップ、西のJALカップ」とキャッチフレーズはいいのだが、いささか盛り上がりに欠けた。試合の内容ではない。全体のムードがである。神戸で行なわれた南米同士のタイトル戦、レコパ・ファイナルを関西の人びとにアピールするにはどうすればいいのだろうか。

☆大感激のベレス
 JALカップは南米最強クラブチームを決めるという試合である。南米サッカー連盟の公式試合レコパ・ファイナルを日本でやり日本航空がスポンサーになっている。
 ことしの大会は日曜日の4月13日に神戸のユニバーシアード競技場で行なわれた。リバープレート対ベレス・サルスフィエルドのアルゼンチン対決だった。90分戦って1対1、延長なしでPK戦をしてベレスがカップをとった。
 ベレスの選手たちはPK戦に勝つと飛び上がって喜び、ベンチから飛び出した役員たちと抱き合い、フィールドを走り回って興奮した。
 「すごい賞金がかかっているのかな。それで、こんなに喜んでるのかな」と隣の席の友人にきいてみた。
 「そうじゃないでしょ。やっぱり名誉ですよ」というのが、友人の答えだった。毎週、毎週、試合をしている本場のプロが、こんなに感激するタイトルなのかとびっくりした。 
 前半29分のベレスの得点は、アルゼンチン代表のカンプスが敵の不用意なバックパスのミスをさらって独走したのにはじまる。リバープレートのゴールキーパーが、1対1でかわされたのに追いすがって足にタックルし、PKになった。反則で独走を止めたゴールキーパーは当然、退場になった。
 リバープレートは、代わりのゴールキーパーを出さなければならないからフィールドプレーヤーを1人引っ込めてサブのゴールキーパーと交代させた。引っ込められたフィールドプレーヤーは、致命的なパスミスをしたマイステラだった。

☆PKをけるGK
 こういう、いろいろなことが起きるからサッカーはおもしろいし、目が離せない。
 主審がベレスにペナルティー・キックを与えると、ベレスのゴールキーパーが、反対側のゴールから敵のペナルティー・エリアまで出てきた。
 「チラベルトのキックが見られるぞ」と隣の席の友人は興奮した。ベレスのゴールキーパーのホセ・ルイス・チラベルトは左足の協力キックが有名で、ペナルティー・キックやフリーキックをけって得点する。PK戦でゴールキーパーがけることはあるが、ゲーム中のペナルティー・キックをゴールキーパーがけるのは珍しい。浦和レッズの田北雄気がJリーグで1点を記録しているが「あれはシーズン最後の試合で話題作りの演出だったから…」と、これも友人の話である。
 チラベルトのキックは、ゴールの真ん中、敵のゴールキーパーの頭上を火を噴くように貫いた。なるほど見る価値のあるGKのPKである。
 さて1対1で、PK戦になって、ベレスの最初のキッカーは、やはりゴールキーパーのチラベルトだった。
 チラベルトは、今度は真ん中でなく右隅を狙った。リバープレートのゴールキーパーのブルゴスは、これを読んでいて見事に止めた。
 ゴールキーパーがしょっぱなに失敗したので、あとの守りのほうに影響しないかと心配したが逆だった。
 チラベルトは、自分の失敗を取り返そうと気を引き締めて、リバープレートの2人目、3人目のキックを止めた。「さすが」である。

☆どよめきが起きない
 こんなにいろいろ面白いことがあったのに、スタンドの盛り上がりはいま一つだった。観客数は2万387人。そんなに少なかったわけではない。両方のクラブの旗を打ち振って応援している子どもたちも、たくさんいた。たぶん運営をプロモートしている人たちが作って配ったんだろう。つまり観客動員にも、PRにも努力していることはよく分かった。 
 外国同士の試合だから、盛り上がらないのはよく分かる。強かろうが弱かろうが地元のチームを応援するのが世界のサッカーの常識で、関係のないチーム同士の試合を「鑑賞」するのはサッカーらしくない。だからPRに苦労しているわけである。
 しかし、その努力もいま一歩である。
 ベレスにペナルティー・キックが与えられたとき、観客の多くがチラベルトのことを知っていれば、スタンドは彼のキックに期待して、どっとわいたはずである。チラベルトを知らなくても、ゴールキーパーが。ペナルティー・キックをけるのが、きわめて珍しいことを知っていれば、違う色のユニホームが反対側のペナルティー・スポットに立ったとき「ほう」とどよめきがおきだはずである。
 しかし、実際には目立った反応はほとんどなかった。つまり、この試合の大きな見どころの一つであったチラベルトについてのPRは、あまり行き届いていなかったということである。あるいは観客の多くが、サッカーそのものを、よく知らなかったのかもしれない。


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