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サッカーマガジン 1996年5月22日号

ビバ!サッカー

続・高校教育とJリーグ

 プロのJリーグに高校生のプレーヤーが登場する時代になった。「このままでは高校のサッカーはダメになる」と心配する人も少なくない。高校サッカー関係者のJリーグ批判に耳を傾けながら、前号に引き続いて高校教育とJリーグの関係を考えてみる。

☆プロとアマチュア
 高校のサッカー関係者からいただいたお手紙をもとに、高校教育とJリーグについて考えたことの続きである。
 前号で「Jリーグが一般の高校生に悪い影響を与えている」というご指摘を取り上げた。
  一つの問題は、若いプレーヤーが高い金額の報酬を得るのがもてはやされ、高校生の間で、何でも金額でものごとを評価する風潮が生まれていることである。
 これは別にサッカーに限ったことではなくて、プロ野球でも起きている。
 ただ野球では、建前としてはプロとアマチュアを厳重に区別して、プロの弊害がアマチュアである高校野球に及ばないように規則を作っている。
 もう一つの問題は、高校の選手が「おれはプロになって食っていくんだから勉強しなくてもいいんだ」と考え、大学にも進学しようとしなくなってきたことである。
 これは、女の子が芸能タレントにあこがれるのと似ているけれども、ちょっと事情が違う。芸能タレントになるのは夢であって現実には無理だと少女たちには分かっているが、サッカーではそうではない。サッカー少年の多くが「ぼくはプロの一歩手前にいる」と信じている。
 ぼくは高校教育の現場を知らないから「Jリーグが高校教育をスポイルしている」といわれれば「そうかなあ」と思うしかない。
 高校生たちは本当にJリーグの悪い影響を受けているのだろうか。

☆Jリーグのノリ?
 三番目の問題は、プロのプレーヤーやJリーグの私設応援団の悪いマナーが、高校の試合にまで広がっていることである。
 いただいたお手紙には、静岡県の高校の大会の決勝で優勝が決まったあとに起きた光景が描かれていた。
 「スタンドから茶髪、金髪の異様な一団がグラウンドに飛び降りて踊りだした。閉会式も始まらない時で、その傍若無人ぶりは決してその場にふさわしいものではなかった」  
 「Jリーグのサポーターのノリだろうが、高校のスポーツが教育の一環として行なわれている限りはやはりケジメは必要」という内容である。
 ぼくの独断と偏見では「茶髪、金髪」を、ここに持ち出すのは適当でない。頭の外側の髪の毛の色と頭の内側の脳味噌の構造とは、直接の関係はない。
 髪の色を染めることによって、自分の個性を出したいのであれば、それはそれでいいと思う。ただし、外側を染め変えても中身が変わるとは思えない。 
 教育の問題としては別の観点もある。中身を変えたいと思っているのに、それが満たされないから外側を変えてみたというのなら、問われるべきは生徒だけではなくて、先生の方でもある。 
 わが大学にも、茶髪、金髪の新入生が数人入ってきた。 
 ぼくは、単なる流行だろうと思っているから気にはしない。すでに授業でミニ論文などを書かせているが、髪の毛の色にかかわりなく、頭の中身はなかなか優秀である。

☆Jリーグに望む
 とはいえ、髪の毛の色にかかわりなく、試合終了直後にグラウンドに乱入し、他の観客に迷惑をかけるのは困ったものである。これが「Jリーグのノリ」であれば、Jリーグに考えてもらわなければならない。
 お金でものごとを評価する風潮にしろ、タレントにあこがれて勉強をないがしろにする傾向にしろ、あるいは応援団のマナーにしろ、なにもサッカーに限った問題ではない。プロ野球にもあるし芸能界にもある。
 ただ、サッカーが特別なのは、サッカーでは、プロとアマチュアを厳重に分けるという考えはないことである。
 逆にサッカーでは、プロとアマチュアは、同じ哲学をもち、同じ組織に属し、同じルールで試合をすることを理念としている。
 だからこそ!
 Jリーグは、次のことを考えてもらいたい。
 @高校選手を、傍若無人に勧誘するのはやめなければならない。高校のサッカーと現実的に共存していくルールを求めるべきである。
 Aプロは特別だと強調しすぎるのはサッカーの理念に反する。どのような職業でも社会人になるための勉強が必要である。
 Bプレーのマナーも応援のマナーも、多くのアマチュアのプレーヤーの模範であってもらいたい。この点でJリーグの首脳部が努力しているのは認めるが、徹底していない。
 高校教育とJリーグについては、さらに多くの問題がある。引き続いて考えていくことにしたいと考えている。


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