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サッカーマガジン 1995年7月19日号

ビバ!サッカー

少年サッカーを7人制に?

 少年サッカーの全国大会をやめようという考えと同時に、子どもたちのサッカーを7人制に統一しようというアイディアが出ているらしい。狭いフィールドで少人数のサッカーを楽しむのはいいと思うが、おとなの考えを押し付けるのでは、うまくいかないんじゃないか、という気もする。

☆少人数の利点は!
 「少年サッカーを7人制に統一させようという意見もあるんだよ」
 この前、少年サッカー全国大会の廃止論を紹介したら、友人が別の改革案があることを教えてくれた。現在の少年サッカー大会は、おとなと同じ11人制だが、1チームの人数を7人に減らし、フィールドも狭くしようという考えである。
 アイディアの趣旨は、よく分かる。
 「スモールゲームの勧め」は、もう十数年前に、このサッカー・マガジンに、ぼく自身が世に先駆けて書いたことがある。そのメリットは、早くから知っている。
 少人数でやると、どのプレーヤーにもボールに触る回数が増える。子どもの11人制の試合を見ていると、あまり上手でない子どものところには、ボールが回らないで、何人かのグループだけで攻めも守りもやっているチームがある。
 レベルの高いチームには、そういうことはなく、試合ぶりはおとなそっくりで、ちゃんとチームプレーができている。ただし、そういうチームでは、上手でない子どもたちは、いつもベンチである。
ボールを扱うチャンスを多くし、どの子どもたちも楽しませようとすれば、少人数のゲームの方がいい。
 狭いフィールドでやることにも利点がある。
 大ざっぱにボールを扱うと、すぐ敵に取られるから、ボール扱いが巧みになる。すばやくプレーしないと敵がつめてくるから、あらかじめまわりを見て判断する戦術能力が、自然に鍛えられる。

☆震源地は強化委員会?
 ところで、改めて7人制少年サッカー論が出てきた震源地は、日本サッカー協会の強化委員会あたりらしい。
 日本代表チームを強くするためには、テクニックと判断力のすぐれたプレーヤーが必要である。
 広いフィールドを90分間走り回れるスタミナや、強いシュートをけるための筋力も必要だけれど、こういう体力は、高校2年生くらいになってから鍛えることができる。
 しかし、ボールを巧みに扱うテクニックや、すばやく判断する戦術能力は、ヒトの脳のなかの配線によって支配される。脳のなかの配線が完成に近付くのは小学生のころだから、小学生のときに、できるだけ多くの子どもがボールを扱い、ゲームを楽しむことを覚えるのがいい。
 その中から才能があり、体力にすぐれた若者が出てくるだろう。そういう若者を選抜して代表チームを編成するのが強化委員会の仕事である。だとしたら、強化委員会が狭いフィールドでの少人数のゲームを子どもたちに奨励したくなるのは、よく分かる。
 走りぬく体力や11人によるチームプレーは、若者になってからでも鍛えられる。子どものうちは、楽しくボールを扱い、柔軟に頭脳を使って、脳のなかに技術と戦術能力のもとになる配線を作っておいてほしい、というわけである。
 そのために、子どものサッカーは、おとなと同じ11人制ではなくて、狭いフィールドで行なう7人制に統一してしまおうという案である。

☆おとなの押し付けでは?
 このような考え方にも、問題がないわけではない。
 第一に、中央のおとなたちが少年サッカーを7人制に統一しようと考えても、津々浦々の子どもたちが喜んでくれるかどうか疑問である。
 子どもたちは、テレビで見るJリーグに刺激されているので「大人と同じサッカーをやりたいな」と思っている。
 そこで見よう見まねで始まるのが、裏通りや空き地でボールをけりはじめる「ストリート・サッカー」である。こんな子どもの草サッカーは、もちろん11人制ではないが、あこがれているのは11人制の本物である。その代わりに7人制を与えられて、心から喜ぶとは思えない。
 第二に、11人制の代わりに7人制の少年サッカー全国大会を開いても、結果は同じことになる可能性もある。
 指導者や親たちが、子どもたちを勝たせたい気持は同じである。7人制なら7人制なりに、型にはまったチームプレーを鍛えて優勝を狙ってくるに違いない。
 ストリート・サッカーの良さは、子どもたちのなかのガキ大将が、仲間を集めてチームを作り、自分が先頭に立って遊ぶところにある。
 その中で自信がふくらみ、リーダーシップも育ち、個性のあるプレーヤーとして成長する。
 7人制であっても、大人が無理やりやらせるのであれば、弊害は同じじゃないかとも考えられる。
 となれば、結局は前回書いたのと同じように、全国大会の是非論になる。


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