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サッカーマガジン 1993年9月16日号

ビバ!サッカー

U−17大会のあれこれ

 17歳未満の選手によるワールドカップ、U−17世界選手権が日本で開かれた。スローインの代わりにキックインを採用してみるなど、変わった試みもあり、日本としては2002年のワールドカップ招致へ向けて運営能力のデモンストレーションを狙って、話題の多い大会だった。

☆U−17ってなーに?
 「なぜ、U−17だなんて変な呼び方をするんだ」と友人が聞いた。日本で開かれたU−17世界選手権の話である。
 「アンダー17ということでね。17歳未満の代表チームによる大会なんだ」と説明したが、友人は釈然としない。「未満とはなんだ」とこだわっている。
 参加資格の年齢制限は、大会の開かれる8月を基準にして「1976年8月1日以降に生まれた者」となっている。したがって8月に生まれた選手は、誕生日がすぎれば、試合が行われている時点では、17歳になる者もいるが、基本的には16歳以下である。
 「アンダー17というのは、17を含まないんだ。だから未満なんだ。以下といえば17歳を含むことになる」と説明したが、友人は納得しない。わがサッカー・マガジンをはじめ、多くの日本のマスコミが「17歳以下のワールドカップ」という表現を使っているからである。しかし、わがビバ!サッカーは、編集長がどういおうと「未満」が正しいと主張する。
  ジュニア・ユースと呼んだこともあるが、年齢区分が変わったこともあって、これも、なじみがなくなった。U−17といえば、日本語で「以下」と「未満」の区別をしなくてもいいので便利かもしれない。
 正式名称を分かりにくくして、簡便な「JVCカップ」をマスコミが使うように仕向け、スポンサーにおもねろうとしたのかもしれないが、これは、そうは問屋がおろさなかったようだ。

☆開幕試合のガーナ
 大会は、8月21日の夜に国立競技場で開幕した。結構スタンドが埋まり、子どもたちのダンスとレーザー光線で演出した開会式も楽しめた。
 つづいて開幕試合。
 日本は1−0で負けたのだが、立ち上がり5分の失点はともかく、そのあとは前回優勝のガーナに追加点を許さなかったので、守備の善戦だということになった。その後の試合内容も見なければならないが、この試合は、まあ、精一杯がんばったというところだろう。
 びっくりしたのは、ガーナの選手たちの個人的な能力である。
 ボール扱いの素早さ、巧みさ、足の速さ、動きの柔らかさ。この国はサッカーのタレントの宝庫じゃないだろうか。おりからドイツのシュツットガルトで陸上競技の世界選手権が開かれていたが、あそこで活躍していた短距離の黒人選手たちのルーツは、アフリカのガーナ辺りだろうか、と想像してしまった。
 人間の筋肉は、おおまかにいうと速筋と遅筋の2種類の筋繊維から出来ていて、その割合は遺伝的に決まっているのだそうである。速筋は収縮する速度が速く短距離型である。ガーナの人たちは、速筋の割合が多いんじゃないだろうか、と考えた。
 遅筋は収縮速度は遅いが、疲れにくいので長距離型である。陸上の世界選手権の女子マラソンで、日本選手が金メダルと銅メダルを取ったところをみると、日本人は概して遅筋タイプかもしれない。ガーナのようなサッカーは、日本人には向かないのではないか、と考えた。

☆キックインは願い下げ
 この大会の話題のひとつは、キックインの試みだった。ボールがタッチラインから出た時、スローインの代わりに、足でけり込む方式である。
 結論を先にいうと、キックインは今後は願い下げである。なぜかというと、サッカーが雑になって面白くなくなるからである。 
 ハーフラインを入った辺りからのキックインは、ほとんどゴール前へ大きくけり込まれていた。中盤のフリーキックからの放りこみと同じである。コーナー近くからのキックインも同様で、要するにフリーキックやコーナーキックがむやみに増えたようなものである。 
 ゴール前への放り込みが増えるから、パスやドリブルで組み立てて攻める現代のサッカーの面白みは少なくなる。放り込みからのヘディングの競り合いだけが攻撃的で面白いというような人は、サッカーの面白みの一部しか分かっていない人で、これは少数の初心者だろう。
 おかしいのは、キックインのときは、オフサイドがないことである。反則をしてフリーキックを取られた方が、外へけり出すより守る方に有利だというのはばかげている。
 長年サッカーを見てきている記者や友人にスタンドで聞いてみたら、みな、ぼくと同じ意見だった。ところが翌日のスポーツ新聞を見ると、キックインで「興奮度満点」などという記事が載っている。この記事を書いた記者は、本当に自分の目で試合を見たのだろうか。先入観で、そう思い込んだのではないのか。


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