アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1993年8月19日号

ビバ!サッカー

MVPに異議あり

 オールスター・ゲームの最優秀選手(MVP)は、またも三浦知良だった。カズに資格がないとはいわないが、ゴールをあげたストライカーだけが選ばれるような選考方法には問題があるのではないか?

☆なぜ、いつもカズ?
 「点をとった選手じゃないと最優秀選手に選ばないんですかねえ。毎回、毎回、カズってのもねえ」
 7月17日に神戸で行われたJリーグのオールスター・ゲームが終わったあと、テレビ解説者の松本育夫さんが話しかけたきた。
 まったく――。
 この試合の最優秀選手(MVP)に選ばれたのは三浦カズだった。
 たしかに――。
 2−1で勝った試合で、東軍の得点は2点ともカズだった。
 前半19分の1点目は、ラモス−リトバルスキーの中盤コンビから出たボールがこぼれたところに走り込んで決めた。38分には木村和司からの好パスを受けて2点目をあげた。点とり役としての仕事を、きちんと果たしたことは間違いない。
 だけど――。
 これは、多くのプレーヤーがボールに触り、頭を回転させ、攻めの組み立てを試みた結果である。その中でカズの果たした役割だけが、特別に大きかったわけではない。
 試合のあとの記者会見で、西軍のレオン監督は「優秀選手は負けたチームからは選ばれないだろうけど、西軍の永島のゴールもすばらしかった」と話していた。
 東軍の松永と菊池は「どうせゴールキーパーは賞の対象じゃないでしょうけどね」と口裏をあわせたように話している。
 カズがMVPにふさわしくなかった、と言っているわけではない。しかし、カズだけがMVPにふさわしかったわけでもない。

☆功労者はサントス!
 「ぼくはサントスを推しますね」と、松本育夫さんが言った。
 「なるほど」
 と、とりあえず賛意を表したが、記者会見が始まったので、サントスを推す理由は聞きそこなった。
 記者会見では、東軍の松木監督も
 「サントスが守りを頑張ってくれたので他の中盤のスター選手が、思う存分プレーすることができた」という意味の話をした。
 これは、そのとおり。
 サントスが、地味な役割を労を惜しまずやってくれたおかげで、リトバルスキーやラモスや木村和司が、のびのびと好きなプレーを披露できた。スーパースターが、のびのびといいプレーを見せてくれるところにこの種の試合の面白さがあるのだから、それを存分に楽しめた神戸の試合の功労者は、サントスである。
 ぼくは、さらに、攻めの場面でもサントスが地味な役割を、しっかりと務めていたことを付け加えたい。
 ラモスやリトバルスキーが、ボールをもったときに、サントスは、必ず近くで角(ツノ)を出していた。
 ツノを出すというのは、ボールをもっている選手からのパスのコースがあいている場所に動いて「いつでもパスを受けられますよ」という態勢を示すことである。
 ラモスやリトバルスキーは、パスを渡さなくても、ツノを出してもらったことによって次のプレーの選択の幅が広がり、楽にプレーすることができた。
 このサントスの目立たない努力が、オールスター・ゲームを面白くした隠れた原因だった。

☆機会均等が必要?
 「そうは言っても、MVPはカズだよな。やっぱり」
 と友人。
 「サッカーは11人でやるってことは知ってるよ。だけどヒーローは、1人でなくっちゃね。それも、はなやかさがなくちゃ。お祭りなんだからいいじゃないか。それにMVPなんて、しょせんジャーナリズムのお遊びだろ。目くじらたてることはないよ」
 ま、実をいうと、ぼくもそう思っていた。MVPはカズでいい。 サントスのような地味な殊勲者は、にわかサッカー通ではない見識のある人物(誰のことか分かってるだろうな!)が、バブルではない見識のあるジャーナリズム(どの雑誌か分かっているだろうな!)で認めてやればいい、と考えていた。
 ところがだね。
 オールスターのMVPには、560万円もする外国製の乗用車が贈られた。
 しかも乗用車をもらう機会のないゴールキーパーたちが、内心は不満をもっていることが分かった。 
 「そうだったら、やっぱり機会均等、社会的公正をはからなければならない」 
 と、ぼくはひそかに考えた。 
 よし、見識ある人物11人を選んで 
 「真に価値あるMVPを選考する委員会」を作ろう。そこで、ゴールキーパーにも、守備プレーヤーにもチャンスのある選考方法を考えよう。 
 ただ、ひとつ問題がある。600万円以上の日本製豪華乗用車を誰が寄贈してくれるかである。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ