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サッカーマガジン 1985年10月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

夏の少年大会は五輪より楽しい
チビのエースが特徴生かして活躍

大物少年がんばる
背が高くてしかもテクニックのある少年が目についた

 暑い盛りの6日間を、東京郊外のよみうりランドで、全日本少年サッカー大会を見て過ごした。昨年はロサンゼルス・オリンピックの取材に行ったために、残念ながら、この大会を見のがしたが、オリンピックよりも、少年サッカー大会の方がずっと楽しいね。本当のところ。
 競技初日。
 少年用のグラウンド6面でいっせいに試合が展開されているのを、横目で見ながら歩いて、ひと通り全部のグラウンドを見る。
 歩いていたら愛媛大学教授の田中純二先生に、ばったり会った。田中先生は、この大会の生みの親と言っていい人である。
 「ことしの大会の見どころは何ですか」
 とぼくがきいた。
 「大きい子でボール扱いの巧みな子がいますね」
 と田中先生が答えた。
 そして付け加えた。
 「FC浦和の試合を見ましたか。ことしの浦和は面白いチームですよ」
 グラウンドの片隅にテントを張り机を並べ、そこに電話を引いて、ぼくたち取材記者の溜り場にしている。その溜り場に戻ったら仲間の記者がこう言った。
 「西宮の金という子はすごいよ。身体がでかくて、うまくて、いくらでも点をとる」
 なるほど、ことしの大会の留意点は大柄な子だな――と思って、それからは、大きなフォワードの選手に注意して見ることにした。
 FC浦和の攻撃プレーヤーでは、身長1メートル60以上の選手が目立った。照井真展君と中園忠和君である。中園君は長身を生かしたヘディングが決め手のようだが、足わざもある。照井君は中盤から前線にかけて幅広く活曜し、チームの軸のようだった。
 身体が大きくて、しかも足わざのある選手が、このチームを、ひと味違ったものにしているのは確かなようだった。
 FC浦和にはもう1人、西田勝彦君がいて、これも身長1メートル62ある。この西田君はどういうわけか、前半はベンチにいて、後半に出て来て活躍した、スーパーサブである。
 西宮少年サッカークラブの金大権君は。1メートル58だった。小学校6年生の身長の全国平均は1メートル43ということだから、これも、かなり大柄である。
 初日の午前の試合で5点。午後の試合で、4点をあげて新聞に大きく取り上げられ、ぼくが見た2日目の試合のときは、2人がかりでマークされて「いやんなっちゃった」というような顔つきだった。
 しかし初日の試合を見た同僚の話では、足わざがあり、シュート感覚があり、「あれは大物だよ」ということだった。
 こういう背の高い小学生が、おとなになっても、大柄だとは限らない。友だちより、ひと足早く背が伸びただけかもしれない。
 したがって、必ずしも「将来の大物」とはいえないけれど、いまのうちに、体格だけで勝負するのではなく、テクニックにものをいわせることを覚えておくのは、いいことだ。
 そうすれば、かりに体格はそう伸びなくても、テクニックで「大物」になる可能性は十分ある。

選抜FCの問題点
チビで俊敏な少年は、単独小学校チームで光っていた

 全日本少年大会を2日目、3日目と見ていくうちに「体格のいい少年の足わざがいい」という初日の感想は、必ずしも正しくないことに気がついた。
 背が高くて、しかも足わざの巧い選手が目についたのは確かである。しかし。本当にテクニックがうまくて俊敏な選手には、チビが多い。その点は、過去の大会と同じである。
 たとえば北海道札幌の南月寒サッカースポーツ少年団の峯吉大輔君。身長1メートル38と小柄だが、ぼくの見た競技2日目の午後の試合では、右サイドから抜いて出て、何度もチャンスを作った。すばやい足わざで抜いて出るテクニックがあり、競り合って相手を置いていく足の速さがある。
 そのうえ、相手に競り勝ったあと、内側に切り込むか、センタリングするか、ゴールラインまで持っていくか、という判断がなかなか適切だった。
 南月寒は、いいチームだったけれど、上位に進出することは出来なかった。そのために、南月寒からは大会優秀選手も選ばれなかった。その代わりに、ぼくがこうして取り上げているわけだが、実は他のチームにも、チビで俊敏なテクニシャンはたくさんいた。
 考えてみれば、これは当然のことで、全国大会に出てくるほどのチームのエースだから、なにか特別のものを持っていなければならない。チビは体格や体力にものをいわせることができないから、対抗するためにテクニックを磨き、スピードにものをいわせるわけである。
 南月寒は、札幌市立南月寒小学校のチームで、4年生以上、6年生までの部員が110人いるという。その中から、チビでもエースになったのだから、特別な才能を持っていないわけがない。
 さて、ここで注意したいことがある。
 それは、こういうチビで才能あふれる少年が、単独チームの中で光っている……という点である。
 この大会に参加できるのは、単独チームとして登録したものに限られているが、中には、実質的には選抜チームでありながら、単独のクラブとして登録して出場しているところもある。
 たとえば、一つの市の中にあるいくつもの小学校の中から上手な子供を選び出し、年度初めに一つのクラブチームとして、日本サッカー協会に登録する。登録された選手が、他のチームに二重に登録されていない限り、形式的には単独クラブチームで、選抜ではないから全日本少年大会に出場資格がある、というわけである。
 これが、いわゆる「選抜FC」でいまもって解決しない、この大会の問題点になっている。
 選抜FCだと、広く選手を探せるから、体格がよくて、しかもある程度、テクニックのある選手を揃えるのもむづかしくない。
 しかし、その一方で、南月寒のようなチームのチビのエースが、のびのびと胸を張って、大舞台に登場するチャンスを奪われているのではないか、と気になった。

異色ストライカー
頭脳的プレーで活躍した清水の所賀君と浦和の町田君

 ことしの全日本少年サッカー大会の決勝戦は、清水FC対FC浦和で、再延長の熱戦のすえ、両チーム優勝となった。
 昨年の決勝戦は、太田南小サッカークラブ(群馬)対多比良サッカースポーツ少年団(長崎)で、大会史上初の単独小学校チーム同士の争いだったが、ことしはまた、いわゆる選抜FCが息を吹き返したわけだ。
 昨年、準々決勝で敗退した清水FCは「技巧派ばかりを揃え過ぎたのが失敗だった」と反省して、ことしは大型選手を加えてきたという。選抜FCだから出来る芸当で、単独小学校チームだったら、手持ちの選手で出来るサッカーをするほかはないところである。
 FC浦和は、埼玉県浦和市内の35の小学校のサッカー少年団から選手を選んで編成したという。これも大柄な選手を各ポジションに、適切に配してチームを作っていた。
 しかし、この両チームで、ぼくがもっとも注日したのは、大型選手ではなく、比較的小柄なストライカーだった。
 実は最初に「大柄で巧い選手がいる」と聞かされていたので、大型選手にとくに注目してはいたのだが、実際に試合を見てみると、チームのカギを握っている選手が別にいることを発見した。
 清水FCの場合は、センターフォワードのポジションでプレーした所賀貴之君である。
 所賀君は、身長1メートル46で、このチームの中では小柄な方である。引き技を巧みに使って、ボールをしっかりコントロールする力を持っているが。この清水FCは、小学校低学年のときから組織的にすぐれた指導をしているので、テクニックのすぐれた少年は、ほかにもたくさんいる。
 足は、それほど速いようにはみえなかった。このチームでは、ふつうか、むしろ遅い方かもしれない。体力、テクニック、すばやさ、という点では、清水FCでは大型の小谷勝治君(1メートル62)の方が評判だった。
 にもかかわらず、ぼくが所賀君に注目したのは「先を読む目」が断然光っていたからである。
 後方からのパスを受け、相手のマークを一つのプレーではずし、ふり返りざま前方の味方にパスを出す。そういう判断が実に的確だった。
 中盤でスローインを受け、振り返りざま、ゴールの逆上すみを狙ってロングシュートを試みたプレーも見た。スローインを受ける前から、そのシュートを狙っていたらしいが、無表情に黙々とプレーしていたのでシュートに意外性があった。
 あらかじめ周りを見て、次のプレーを瞬間に読む頭の良さがすばらしい。
 FC浦和のセンターフォワードの町田徹次郎君も、似たタイプだった。身長1メートル40とさらに小柄だが、テクニシャンである。所賀君が次のプレーを読んでパスを出そうとしたのに対し、町田君の方は、次のプレーを読んで自分が動いた。よく動くので足が速そうにみえたが、本人の話では、実はあまり速くないそうだ。
 こういう頭脳的なプレーヤーが生かされているのは、すばらしい。サッカーの選手には、それぞれ、いろんな特徴がある。自分の特徴を生かして楽しめるのが、このスポーツの良さである。


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