コスモス戦が最高記録
ペレ・サヨナラ・ゲーム・イン・ジャパンの最終戦、日本代表−コスモス(9月14日)の試合で日本最大のスタジアムの国立競技場がぎっしり満員になった。国立競技場の係員が「スタンドのてっぺんに、ずらりと立ち見のお客さんが並んだなんてことは初めてだ」とびっくりしていたそうだ。ぼくの見たところでも、東京オリンピック以後、日本のスポーツが集めた最大の観衆であったことは間違いない。サッカーの試合で国立競技場を満員にすることは、ぼくの一つの夢だったから、とにかく、それが実現したことを喜んだ。
ところが、翌朝のあるスポーツ新聞の一面トップの大見出しを見て、ぼくはびっくり仰天した。
「6万5000人、ペレ!釜本!ジャパンボウル(昨年)に次ぐ大観衆」と書いてある。そして次のページには「国立競技場観客動員ベスト10」の一覧表がのっていて51年1月18日のアメリカン・フットボール試合、ジャパンボウルの観客7万2千人が、東京オリンピック開会式につぐ動員数になっている。
これには、ちょっとからくりがあって表のいちばん下に「数字は各主催者発表」と注がある。つまりサッカーの場合はサッカー協会がラグビーの場合はラグビー協会が、それぞれ発表した数字を比較したもので、ちゃんと根拠はあるというわけだ。
ところがこの“主催者発表”は試合中におよその見当をつけて概数を出すだけのなのである。別の主催者が別に出した概数を比較することが、そもそも無理な話である。
しかも、ジャパンボウルの主催者は、実はその概数の一覧表を載せたスポーツ新聞自身なのだ。自分のところで主催したゲームの観客数を自分自身で大きく発表しておいて、それがナンバー・ワンだというのなら、主催者がそれぞれ誇大な数字を発表したときに、比較のしようもないことになるだろう。
ちゃんと入場料を払ってスタンドに来た観客の数は、コスモス戦の場合、日本サッカー協会によれば6万1692人だった。国立競技場業務課の調べでは、それ以前の試合の有料入場者数は別表のとおりで、ジャパンボウルは約3万9千人である。
ぼくはジャパンボウルの7万2千人の発表が誇大だといって非難するつもりはない。自分の主催した行事を華やかにPRしたいのは当然だろう。ただ、その数字を他の主催者の行事と比較するのは明らかに当を得ていない。コスモス戦が東京オリンピック以後の観客数最高記録だったことを、はっきりさせておきたいだけである。
天皇杯で札止めに
それではコスモスの大観衆で、ぼくが大いに満足しているかというとそれは違う。あれでもまだ、観客数は少ないと、ぼくは思っている。
国立競技場の話では、当日発行された入場券は6万7370枚だった。競技場の定員は7万1328人だが、記者席などを含んでいるので、実際に発行できる切符は、これが限度らしい。
そのうち有料入場券は6万5799枚だった。そのうちS券とA券は前売りで全部売り切れ、B券も当日売りの1万5千枚をほとんど売り尽くしたが、“札止め”までにはいかなかった。
前号に書いたように、このペレのサヨナラ・ゲームでは、日本のサッカーでは空前の大PR作戦が展開された。テレビやラジオのスポット宣伝が何百本も打たれ、新聞にも広告を出し、東京都内の電車の中づり広告もあった。
あれほどの大宣伝をしたのだから“札止め”になっても、おかしくはないと思う。わずかではあったが、当日売りに残りが出たのは残念だ。
観客数が多ければそれでいいというものでは、もちろんない。しかし、サッカーのような大衆のスポーツでは、大観衆を動員できるだけの底力は、競技人口を広げるためにも、競技レベルを上げるためにも欠かせないと思う。
そういう目で、別表の有料入場者数一覧を見直してみると、いくつか気がつくことがある。
一つは。サッカーが上位に並んではいるが、今年のコスモス戦を除くと、いずれも昭和40年代だということだ。
50年代になるとラグビーのほうが多くの観衆を集めていることがわかる。競技人口はサッカーのほうがずっと多いのだから、これはちょっと考えなければならない点である。
もう一つ、サッカーの場合、観客が多いのは、日本代表チームの試合に限られており、しかも、観客数の多さは相手チームによって決まっていることがわかる。日本チームの魅力によってでなく、相手チームの魅力でお客が集まるわけである。
ラグビーの場合は国内の試合。それも早大の試合が圧倒的に人気を集めている。スポーツの性質の違いといえば、それまでだが、ぼくはどちらかといえば、ラグビーのほうが健全だと思う。外国チームの魅力に頼ってばかりいては、いたずらに高いギャラを外国に払い続けなければならない。
そういうわけで、コスモス戦の大観衆を、そうめでたがってばかりは、いられない。元日の天皇杯決勝で国立競技場が札止めになるようでないと、日本のサッカーも本物ではないと、ぼくは考えている。 |