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サッカーマガジン 1976年6月25日号
時評 サッカージャーナル

揺れ動くアジアの問題

中国の登場で複雑に
 日本代表チームの新監督に、二宮寛氏が就任して、日本のサッカーは再建へのスタートを切った。目標は4年後のモスクワ・オリンピック、いや実際には、その1年前のオリンピック・アジア予選で、そうたっぷり時間の余裕があるわけではない。
 ところで、またまた、1978年、つまり2年後のアジア競技大会を日本で開催すべきかどうかの問題が起きている。新聞紙上でご存じかと思うが、このアジア大会はもともとパキスタンで開催する予定だったのに、同国が財政難を理由に返上し、「日本は施設も経済力もあるじゃないか」と肩代わりを迫られている、といういきさつである。
 さて、そこで、ぼくと友人との対話――。
 「2年後のアジア大会を日本でやることになったら、いちばん閉口するのはサッカーだぞ」
 「どうして?」
 「地元の日本でアジア大会をやるとなれば、サッカーでも日本代表チームにぜひ優勝してもらわなくちゃならない]
 「それはそうだ」
 「二宮新監督としては、モスクワ・オリンピックを目ざすチーム作りをしなければならないのに、その前にアジア大会優勝も至上命令ということになると、あまりに余裕がなさすぎる」
 現在のシステムでは、オリンピックにはアジアから3チーム出られる。つまり「モスクワ・オリンピックを目ざす」ということは、アジアのベスト3にはいれということである。
 一方、アジア大会優勝は、アジアのNO1ということである。ベスト3になる目標より前に、ベスト1にならなければならないのでは、チーム作りの計画が混乱しはしないか――というわけだ。
 「思い切った若手の登用ができかねることも考えられるな」
 と友人は心配した。
 アジア大会を日本で引き受けることになるかどうかの見通しは、いまのところ定かでない。「断るべきだ」という意見が、一般には有力のようである。
 しかし、一方では「1978年大会は、どうしても日本で開かなくてはならない」と、ひそかに決意を固めている人たちもいる。
 その背景は、きわめて政治的であり複雑微妙だから、ちょっとこのページでは説明しきれないが、誤解されかねないことを承知で、ごく簡略化すれば「中国の国際スポーツ界への進出に密接な関係がある」といえるだろう。
 ヨーロッパに近いユダヤ教の国イスラエルが、アジア競技大会にはいっていることは、以前から東南アジアの回教国にとっては、頭の痛い問題だったが、最近、東南アジア諸国と中国との関係が密接になるにつれて「イスラエルをアジア大会から除外しよう」という動きは、さらに複雑な様相を帯びてきた。
 こういうときに理想論ばかりをいっていたのでは、現実の力に押されてアジアのスポーツが左右に分裂するのを手をこまねいて見送る結果になりかねない。そういう事態を避けるために、あえて火中の栗を拾ってでも、宙に浮いているアジア大会の開催を日本で引き受け、アジアのスポーツの苦しい状況をしのぐべきである――という考え方もあるわけだ。
 そういう重大な問題だから、サッカーの都合だけで賛成だとか反対だとかいうことは、もちろんできない。

ワールドカップの予選
 ところで、サッカーはもう一つやっかいな問題を抱えている。それは、ワールドカップの予選である。
 1978年アルゼンチンのワールドカップにアジア・オセアニアからは1チームだけしか出場できない。その1チームを決めるための1次予選で、日本は韓国、朝鮮民主主義人民共和国、イスラエルと同じグループである。
 よりによってむずかしい組み合わせになったものだ。もともとは同じ国でありながら、いまは政治的に鋭く対立している南北朝鮮の対戦をどうするか、オリンピック予選でも悩まされたイスラエルとの試合をどうするか。いずれにしても一筋ナワでは解決できそうにない。
 この組み合わせが決まる前に、アジアサッカー連盟(AFC)では、イスラエルをヨーロッパのグループに入れるようひそかに話し合いが行われ、イスラエル自身も、そのつもりになっていたと伝えられている。イスラエルは距離的にも、日本と同じグループにはいるよりは、ヨーロッパにはいるのが便利である。宗教的、政治的に対立関係の多いアジアのグループに入れておくほうが不自然だ。イスラエルが自発的にヨーロッパのグループにはいってくれれば、これにこしたことはない。
 しかし、ヨーロッパだって、イスラエルを抱え込んでゲリラ対策に頭を悩ます羽目にはなりたくないから、これまた、懸命にイスラエル転籍お断りの運動をし、その結果、距離的にはもっとも遠い極東の3国に、イスラエルを押しつけてきた、という次第である。日本にとっては、まったく迷惑な話である。
 「韓国やマレーシアなどとのつき合いだって、これまでの日本のサッカーには、不手ぎわが多かった。これからは、これに中国、朝鮮民主主義人民共和国、それにアラブ諸国も加わるんだから大変だよ」
 「試合相手としても強敵ばかりだな。しっかりやってほしいね」
 サッカーはアジアのどこの国でも人気スポーツであるだけに「サッカー外交」を誤らないように日本サッカー協会に望みたい。


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