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サッカーマガジン 1975年2月号
牛木記者のフリーキック

●日本リーグの表彰式で
 12月14日に、東京の日本体育協会の講堂で日本サッカーリーグの表彰式があった。10年前までは、都内のホテルに関係者だけが集まっていたのだが、今回は日本リーグ10周年のお祝いを兼ねて、一般のファンも参加できる場所で表彰式をしたわけである。
 事前のPRが不足だったためか、一般ファンの出席者は少なかったが、それでも、若い女性ファンが何人かきて、得点王の釜本選手と談笑する機会を得ていた様子は、ほほえましかった。次回は、サッカー映画かなんかのアトラクションをやって、にぎにぎしく少年ファンにも集まってもらうようにして欲しい。一部の役員と報道関係者だけが集まって、しかつめらしくセレモニーをやるのは、大衆のスポーツであるサッカーには、ふさわしくない。
 ところで、この表彰式は、1部リーグに関するものだけだったが、日本リーグには2部もあるのだから、2部の表彰も、いっしょにやるようにしてはどうだろうか。式が長くなるという心配はあるが、セレモニーをもっと簡単でくだけたものにすればよいと思う。
ただし、1部リーグと2部リーグは、表彰式をいっしょにするより、まず組織を一つにするほうが先かもしれない。
 いま、1部リーグと2部リーグは、名称は同じ「日本リーグ」を名乗り、規約の文章の上では一つの組織になっているが、事実上は二つの独立した機構である。1部リーグには1部の評議会、2部リーグには2部の評議会があって、1、2部を合わせた日本リーグ全体の最高決議機関はない。なぜ、こういうことになったのかは知らないが、これは二つの評議会を統合しなければおかしい。
 ついでながら、評議会を統合したら、1、2部の間の入れ替え戦はやめて、1部下位と2部上位のチームを自動的に入れ替えるようにすべきである。この日本独特の入れ替え戦制度の弊害については、前にも書いたことがあるから、ここでは省略しよう。
 表彰式のあとで、恒例のパーティーがあった。そのパーティーの最後に司会者が、次のようなお願いをした。「新しくはいってこようとしているチームにどうこうという気持はありませんが……」
と断ってから司会者はいった。
 「残念ながら下位になった二つのチームは、これから2部との入れ替え戦をしなければなりません。われわれの仲間であるこの2チームに激励の拍手をお願いします」
 1部と2部が同じ組織に属し、入れ替え戦の制度がなかったら、楽しいパーティーの最後にシラけた拍手をしないですんだはずだ。

●ペットマークに異議あり
 日本サッカーリーグのペットマークが決まった。目玉が白黒ボールになっている3本足のカラスである。ぼくの考えでは、これは、おかしいんじゃないかと思う。
 ペットマークのデザインの出来ばえに異議があるわけではない。問題は、3本足のカラスが、日本サッカー協会のマークだというところにある。協会のマークを、そっくり盗用したようなデザインを採用するなんて、リーグの主体性が疑われる。協会自身のペットマークなら3本足のカラスのデフォルメでも、おかしくはないんだが……。
 昨シーズンのはじめに、日本リーグでペットマークを公募したときは、デザインについて何の制限もついていなかった。ところが、応募作品のなかに。これといったものがなかったので、再募集することにした。再募集のときに「カラスをテーマにしたものに限る」という制限をつけたのが、大間違いである。
 再募集でも、採用に値する作品はなかったため、やむをえず、審査員の横山隆一氏に描いていただいたものを“当分の間”使うことにしたのだそうだ。横山隆一氏が、3本足のカラスを描いて下さったのは、再募集のときの制限に従ったからである。
 日本リーグの運営委員の方たちは「カラスをテーマにしたものに限る」という再募集の制限を作ったときに、何の抵抗も感じなかったのだろうか。感じなかったのだとすれば、自分たちがリーグを組織していることの意味を、自覚していないに違いない。
 日本リーグは、いうまでもなく、日本サッカー協会のカサの下にある。しかし、協会そのものではないし、協会の下請け機関でもない。リーグは、一つの独立した組織であり、独自の仕事をもっている。リーグが協会と同じものであれば、なにもリーグのペットマークを作る必要はないはずである。
 リーグは、本来“同じレベル”のチームが集まって、試合をするための組織である。したがって、リーグの組織は、競技水準によっていくつもできる。最高のレベルのリーグが、日本では日本リーグになるはずだ。
 協会は、“あらゆるレベル”のサッカーが、健全に発展するよう指導する立場にある。そのほか、日本代表チームの編成と全日本選手権の組織が協会の主要な任務である。協会はリーグと違って“一つ”でなければならない。
 協会とリーグの性質の違いが、日本リーグの委員の皆さんにわかっていないのではないか。だから3本足のカラスを、ペットマークに選んだりするのではないか、とぼくは疑っている。

●観客数はふえたけど
 日本サッカーリーグ表彰式の席上で、ある人が、こんなあいさつをした。
 「このシーズンは、観客動員数もふえたということで、いささか安心しているのであります」
 ぼくの聞き違いでなければ、この方は、かなりの楽天家だろうと思う。
 別表の数字が示すように、1974年のリーグの観客数は、前年よりふえたことはふえた。しかしわずかなものである。1968年以降の漸減傾向が底をつき、ようやく上昇に転じたと見るのは、まだまだ、無理だと思う。
  わずかな増加でも、グラフが上向きに転じたことを、評価しようと思えば、評価できないことはない。
 というのは、このわずかな増加はリーグ関係者の努力によって得られたものだからだ。日本リーグでは、昨年、順位や勝敗をあてるクイズをやったり、ペットマークの公募をしたりして、人気回復につとめたが、それだけでなく、各チームに対して、積極的に切符を売る努力をするよう要請したらしい。
 「それでね。関連会社の人たちにまで頼んで、かなり買ってもらったんですがね」
 と、あるチームの人がいっていた。
 「きみたち、そんなに切符を売って、どれくらいチームにはいるのかねって、いわれるんですよ」
 いくらチームで努力して切符を売っても、売り上げをリーグに取りあげられるだけでは、会社の人たちも、応援してくれる人たちも、協力のしがいがない。リーグの試合は、ホーム・チームが運営し、入場券はホーム・チームが努力して売り、収入はホーム・チームで管理するのが本当である。ヨーロッパや南米では、いなかの草サッカーでも、そうやっている。だから、自分の町のチームを維持するために、町の人たちは喜んで切符を買う。
 日本リーグの観客数を本当に上向きにするには、関係者の努力に、もう一つ、大きな発想の転換が必要である。


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