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サッカーマガジン 1975年1月号
牛木記者のフリーキック

●ペレのサッカー教室を見て
 “王様”ペレが日本に来て、清水、東京、広島の三か所でサッカー教室を開いた。ぼくの見たのは、東京の分だけだが、聞くところによると、三か所三様だったそうだ。
 最初の清水では、地元のサッカー少年団のチーム約200人がフィールドに出て、直接ペレの指導を受け、その他の人はスタンドで見学するというやり方だったらしい。2万人収容のスタンドが、ほぼ満員だったという。
 グラウンドで直接指導を受けたのは、サッカーどころのエリート少年たちだから、かなり水準は高い。その翌日に、ペレと巨人の長島監督が、日本テレビで対談のビデオ撮りをしたが、そのときペレが「日本の少年たちはテクニックがいい。ヨーロッパの少年たちは技術より力に頼るサッカーをしがちだが、日本の少年たちは、ブラジルの少年たちと同じように、テクニックがうまい」と、しきりに賞めていた。レベルの高い清水の少年サッカーを見た直後だから、こういう言葉が出たのだろう。
 しかし、清水では、フィールドに出た少年の数が多すぎたようだ。その全部に、直接ペレの指導を受けるチャンスを与えようとしたため、ペレがいくつものグループをぐるぐるまわり、指導がこま切れになった印象を与えたらしい。
 そのためかどうか、東京ではフィールドに出た300人の中から、1グループだけ、十数人を引っぱり出し、前半はそのグループだけを相手にトレーニングの方法をやってみせた。
 ところが、東京の受講者は、はがきで参加希望者を公募して、抽選で選んであった。だから、清水の少年たちのようなエリートばかりとは限らない。その結果、なにをやっても、サマになっているペレにくらべて、東京の少年たちの不器用さが、やけに目立った。
 たとえば、練習のはじめのウォーミング・アップに、軽くジャンプをやってみせる。ペレは実にリズミカルに、ピョン、ピョン、ピョンと躍動するのに、東京の少年たちは、形ばかりで、まるでリズムに乗っていない。その不器用さを直そうとして、ペレは結構、時間を費していた。
 「あこがれのペレを、できるだけ多くの少年たちに触れさせたい」
 というのが主催者のねらいだったのだろうし、それはそれで悪くなかったのだが、いささか、もったいないような気もした。
 ペレの疾走、ペレのドリブル、ペレのキック――どれ一つをとっても、実にみごとである。それをもっと、たっぷり見せてもらいたかった。そのためには、清水でも、東京でも、少年たちの数が多すぎたようだ。
 広島では、特に優秀な少年を選抜して、少数のモデル・グループを作ってペレを迎えたそうだ。それが、うまくいったかどうかは、まだきいていない。

●奇妙なアマチュアリズム
 スキーの季節である。東京でも用具をかついで電車に乗り込んでくる若者を、よく見かける。
 かついでいるスキーに、3色のニワトリのマークがついているものがある。あれはフランス・スキー連盟のマークだ。フランス・スキー連盟は、自国のあるメーカーから協賛金をとって、このマークを使うことを許している。
 フランスのスキー選手は、オリンピックや世界選手権大会では、この自国メーカーの製品しか使わない。一方、メーカーは新聞の広告に、自社製品を使っている選手の写真をあしらったりする。連盟は、それについて、また協賛金をとる。
 IOC(国際オリンピック委員会)の会長だったアメリカのブランデージ氏は、ヨーロッパのスキー界のこういうやり方に、ひどく腹を立てていた。「広告に使われた選手はオリンピックには出さない。できれば冬のオリンピックそのものをやめてしまいたい」と――。
 しかし、時代は変わった。ブランデージ氏がやめて、IOC会長はジャーナリスト出身のイギリス人、キラニン卿になった。キラニン新会長のもとで、IOCはさる10月にオリンピックの参加資格規則(いわゆるアマチュア規則)を変更した。つまり、スキーのやり方を公然と認めたのである。
 奇妙なのは、この変化に対する日本体育協会アマチュア委員長の反応である。
 日本体育協会のアマチュア規定では「選手の名声を利用」することは禁止されている。したがって選手の写真を広告に使わせて金をとることはできない仕組みである。
 日本のアマチュア委員長は、この体協の規定を、「変える必要はない」と宣言した。その理由は「日本では競技団体の間のバランスをとる必要がある」からだという。
 わかりやすく解説すれば、こうなる。
 「オリンピックの新規則を取り入れると、スキーは選手の写真を広告に使わせて資金かせぎができるか、陸上競技では国際陸上競技連盟にきびしいアマチュア規則があるのでできない。これは不公平だから、日本では、みな陸上競技の規則のレベルにしばりつけておこう」
 委員長は、元日本陸連理事長である。
 サッカーに関係のない話だと思ってはいけない。
 国際サッカー連盟(FIFA)の規則では、プロもアマも、同じように各国のサッカー協会に属することになっている。
 ところが日本体育協会のアマチュア規定では、その加盟競技団体である日本サッカー協会がプロ選手を登録させることを認めていない。
 「日本のサッカーにプロができると、陸上競技をやっているいい選手を、みなサッカーに取られてしまう」
 これは、アマチュアリズムの美名の裏側にある、隠にこもったナワ張り根性である。

●正月の日程に異議あり
 バイエルン・ミュンヘンの試合の前売券が飛ぶように売れている、という話である。
 売り出し日の11月8日の翌々日に、サッカー協会に行ってみたら。第1戦のS劵(2500円)とA券(1500円)はすでに売切れ、第2戦はS券が売切れ、A券はわずかに残っているという状況だった。ただし、国立競技場は収容能力7万人以上だから、いかによく売れてるといっても、B券(1000円)ならまだ余っているはずだ。しかもB券の学生前売りは500円。B席のいい場所とS席との間に、5倍の差があるとは思えない。これから、お買求めの方はB券をどうぞ!
 外国の強いチームを招く以上、なるべく多くの人に一流のサッカーを直接、味わってもらいたい。したがって、2カ月も前にはじめた前売りがよく出ているのは、慶賀すべきことだ。「商魂たくましい」と評する向きもあるだろうけれど、バイエルン・ミュンヘンのギャラは非常な高額で、赤字になるおそれは十分あったのだから、協会が切符を売る努力をするのは当然である。
 ただし、この時期に外国チームを呼ぶことには問題がある。
 先月号に書いたように、高校選手権大会の期間中にバイエルン・ミュンヘンの試合が重なったため、高校サッカーを毎年放映しているテレビ局は窮地に陥った。結局、そのテレビ局は、バイエルン・ミュンヘンの第1戦の放映権を獲得して、なんとか面目だけは立ったのだが、同じ日に高校選手権の試合と合わせて連続3時間もサッカー中継をすることになり、前後の番組の編成替えと、それにともなうスポンサーの了解とりに、ひどく苦労しているらしい。本来なら、同じ時期に日本サッカー協会の大きな行事を二つもやることが間違っている。そのしわ寄せである。
 同じようなことは、天皇杯の決勝の観客動員についても、いえるだろう。
 正月の七か日の間に、元日の天皇杯大会決勝とバイエルン・ミュンヘンの試合を合わせて、東京で3試合もやることになると、天皇杯の方のお客さんが減るんじゃないか、と心配だ。サッカー・ファンのふところにも限度があるからである。
 天皇杯の決勝こそ、日本サッカー協会がもっとも力を注ぎ、国立競技場を満員にするよう努力すべき試合である。その形がうすくなるような年間スケジュールの組み方には問題がある。
 外国チームの招待は、相手の国のシーズンの関係があるから、こちらの都合どおりにゆかないのは、やむをえない。
 そのことは十分承知しているが。バイエルン・ミュンヘンの切符が売れているのに気をよくして国内事業へのマイナスの影響を忘れては困ると思って念の為。


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