日本は果たして優勝のチャンスがあるだろうか……日本中のサッカーファンが気をもんでいる問題に冷静にメスを入れてもらった。そのプラスとマイナスは……
★ワールドカッブ予選日程
大会を目の前にして、韓国がローデシアの入国を拒否したため、宙に浮いていたアジア地域予選は、FIFA (国際サッカー連盟) の解決策により、まず、韓国、豪州、日本の3国で2回戦総当たりを行ない、その勝者が、ローデシアと中立国で試合を行なうことになった。
▼第1回リーグ
10月10日 日本-豪州
10月12日 日本-韓国
10月14日 韓国-豪州
▼第2回リーグ
10月16日 日本-豪州
10月19日 日本-韓国
10月20日 韓国-豪州 |
いよいよ幕明けだ
オリンピック をもしのぐ世界のスポーツ界最高のエベント ―― サッカーの世界選手権ワールドカップは、いよいよアジアでも激闘の火ぶたを切った。
9月29日、中東戦争のきなくさい風が吹き抜けるテル・アビブで、地元イスラエルがニュージーランドに快勝したのが、アジア地域予選の幕明けだった。そして10月10日に日本の出場する第15組1群の競技会が、韓国の首都ソウルで幕をあける。
来年の6月、メキシコで開かれる栄光の最終ラウンドヘ ―― 世界のスポーツ、サッカー以外には見られない、遠く、けわしく、そしておそらくは、波乱に満ちた世界選手権への道のスタートである。
8試合を勝ってメキシコヘ
10月10日からのソウル予選は、日本、韓国、オーストラリアの3カ国が出場し、1日おきに20日まで、毎日1試合ずつ行なわれる。2回戦総当たりである。
正確にいえば、この予選競技会の名は、「第9回ジュール・リメ・カップ世界選手権1970年メキシコ大会予選競技、第15組 (アジア・オセアニア地域) 1群、1次予選競技会」となる。
このソウル予選に勝った国は、FIFA (国際サッカー連盟) の指定する会場で、ローデシアと2回戦制の試合をしなければならない。そして、これに勝った国が、イスラエル対ニュージーランドの勝者と2回戦制の試合をして、はじめてメキシコの最終ラウンドヘ出る権利を得る。
数えてみると、日本がメキシコの土を再び踏むためには、あと8試合を勝ち進まなければならないわけだ。
強敵韓国の伸び
ここでは、目前に迫ったソウル予選に焦点をしぼってみよう。
ひと口で結論をいえば、
「日本にとっては韓国、韓国にとってはオーストラリアが強敵」
ということになる。3カ月ほど前に、日本代表チームの岡野俊一郎コーチは、このような見通しを立てていた。
日本にとって韓国が強敵であることは、これまでの日韓戦の歴史が証明している。
一昨年のメキシコ・オリンピック予選のとき、東京の国立競技場で行なわれた、“雨の激闘”は、まだ記憶に新しい。
日本が前半2−0とリードしたのを追って、韓国が後半に猛烈な追撃をみせた。その闘志、その気力、その体力 ―― いずれも日本チームを圧倒していた。
試合は3−3の引き分けに終り、日本は結果としてはメキシコ・オリンピックヘの出場権を得たが、あの日韓戦に関する限り、日本は幸運だったとしか、思われない。
「日本が韓国にまさっているのは国際試合の経験だけだ」
という当時の批評を思い出す。
こんどのソウル予選に出場する韓国チームは、あのオリンピック予選のメンバーが主力になっている。日本チームも同様である。
注意すべきことは、あれから2年間の時間は、韓国チームにとって有利だということだ。
2年前に、韓国のサッカーは、世代の交代期だった。その年の春に、台湾のアジア・ネーションズ・カップに敗れてから、若手に切リかえて、ムルデカ大会、続いてオリンピック予選に出てきた。
当時の若手が、2年の経験を加えている。ことしの夏には “陽地クラブ”(韓国陸軍のチームで、主力選手が属している) が、3カ月のヨーロッパ遠征もしている。
日本は、メキシコ・オリンピックのあと、八重樫が退き、今回はまた病気の釜本を欠く。表面だけを見れば、プラス・マイナスは明らかである。
オーストラリアは
韓国にとって、オーストラリアが強敵とみられるのは、未知の相手だからだ。
日本は、昨年の春にオーストラリアと対戦し、オーストラリアの水準も、傾向も心得ている。
もちろん、オーストラリアも、1年半の間に変ったかも知れない。また、もともと、日本よりも下のチームではない。しかし遠征して五分の星 (内容としては日本が勝っている)を残した実績は、日本選手の心理に良い影響を与えるに違いない。
韓国は、陽地のヨーロッパ大遠征で、大型チームとの対戦の経験も積んだに違いない。また、ソウル予選の組み合わせは、日本−オーストラリアの試合ぶりを見てから、韓国が対戦するようになっていて、韓国にとって有利になっている。しかし、韓国が日本ばかりをマークしていたら、オーストラリアに足をすくわれることは、十分予想できるところである。
勝つチャンスはある
客観的にみて、ソウル予選に対する国際的な予想は、「韓国の優勝」であろう。経済的にもかなりな無理をして大会を誘致した韓国が、勝つために万全の準備をすることは間違いない。
このような大会で、地元が優勝しなかった例は、この2年間の国際試合の戦績を見ると非常に少ない。遠征チームにとって、組み合わせ、ホテル、食事など、あらゆる点で不利があるのは当然。
オーストラリアも、「優勝候補は韓国、したがって当面の相手は、日本よりも韓国」という予想を立てているという。オリンピック銅メダルの実績も、ここではかえりみられない。ワールドカップは、より高い、非情な実力の世界である。
それでもなお、日本が勝つチャンスは十分にあると思う。
杉山の足は、昨年のメキシコ以来、みごとによみがえっている。
渡辺のゴール前の執念は、東西対抗の第1戦で、ますます “すごさ” を増したところをみせてくれた。中盤を支える森の成長ぶりは、最近目ざましいものがある。スイーパー鎌田の判断力は、いままで日本のサッカー選手の、だれも到達したことのない境地に、達しているように思われる。
また、なによりも、このチームの全体をまとめる、ひとつのふんい気。東京オリンピックの2年前から7年間にわたって、長沼監督のもとに、育てられてきたチーム・カラーは、他のチームにないものである。
これこそ、外国の専門家が、表面のデータだけからは判断し得ない、日本チームの秘密である。
ワールドカップ予選で日本チームが健闘し、この良い伝統が、次々に若い世代に伝えられていく基礎が、いっそう固められるように期待しよう。 |