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サッカーマガジン 1968年9月号

メキシコ五輪日本選手団の派遣人数決まる
サッカーは選手18人 役員1人

JOCは責任を負うべきだ
 
この暑さの中に、くだくだしい議論は、ご迷惑と思うが、この問題は避けて通るわけにはいかない。
 なぜといって本誌5月号でお話ししたメキシコ・オリンピックの日本チームを何人にするかという問題の続きだからである。
 あれから4カ月。日本体育協会の中にあるJOC(日本オリンピック委員会)でもみにもんで、結局メキシコに行く日本代表サッカーチームの数は、選手18人、役員1人に決まった。
 オリンピックで認められている選手数は19人だから、1人足りない。サッカー協会は最後まで19人を主張して粘ったけれども、JOCはどうしても増やしてくれなかった。1人削った理由については、あとで触れるけれども、まったく理解に苦しむ。
 役員はひとりだけ。東京オリンピックの2年前から、日本代表チームは、長沼監督、岡野、平木両コーチのトリオで、集団指導をしていたが、この分では長沼監督ひとりしかメキシコヘ行けない。
 多少なりとも日本のサッカーを知っているものなら―― 「サッカーマガジン」の読者なら―― 「これでは、じゅうぶんな戦いはできない」という協会の主張が理解できるだろう。
 選手数を削られたために、一昨年バンコクのアジア大会で、日本がにがい思いをしたことは、5月号で述べた。
 今回、選手と役員を削られたために、10月メキシコで日本のサッカーが実力を出し切ることができないとしたら、その責任はJOC ―― とくに、選手数のワクを決めたJOCの常任委員が負うべきである。この常任委員の中には、サッカーの関係者は、ひとりもはいっていない。

長沼 ― 岡野 ― 平木のトリオを分断?!
 
6年間、がっちり組んだ長沼 ― 岡野 ― 平木のスクラムを、かんじんのメキシコ・オリンピックのときになって分断することが、できるわけはない。
 そこで、サッカー協会は、JOCとは別に独自でコーチ2人をメキシコに派遣することに決めたそうである。これで、長沼、岡野、平木の3人が、とにかく、スクラムを崩さずにメキシコヘ行くことは、できるわけである。監督ひとりと、選手18人分の費用は、JOC、つまり体協が出す。コーチ2人の費用はサッカー協会が持つということになる。
 それでは、これでコーチ陣については万事解決かというと、そうではない。巌密にいえば、日本選手団のメンバーでなければ、メキシコに行っても、選手村に泊めてもらえないし、競技場へ行って、ベンチにすわることもできない。
 平木コーチは
 「赤いトレーニングシャツをかぶって、選手たちといっしょに、すいすいとはいっていけばOKだけどね。泥棒ネコみたいなマネをしなけりゃならんとは、情けない」
 と、いっていた。
 聞くところによると、JOCは、選手村への入村、競技場の出入について、できる限りの便宜をはかれるよう努力するとのことである。選手団長に決まった大庭JOC総務主事の意向も、そうだという。
 激しい予選を勝ち抜いて出場権を得た日本チームが、心おきなく戦えるように、ぜひそうしてもらいたい。そうするのが当然であると思う。
 しかし、メキシコヘ行って、事実上選手団の一員として行動するのなら、なぜ日本の国内で、正々堂々と日本選手団の一員として発表することができないのか。経費の問題ではない。経費は協会が出すにしても、実際にベンチにすわって指揮をとるコーチが、選手団の一員でないとは、どういうわけか。大衆にとってわけのわからないやり方を、JOCはやろうとしている。

数字のごまかし
 こういう問題は、すべて「少数精鋭主義」ということばの前半、つまり「少数」にこだわるから出てくるのだと思う。なにがなんでも、数さえ少なく発表しておけば、世間がなっとくするだろう、というやり方である。
 サッカーの選手の数を、19人から1人削ったのも、同じ考え方である。JOCの常任委員会とサッカー協会との交渉の席で、ある常任委員が、こういったという。
 「フルエントリーしたければ、一度メダルを取りなさいよ。強いという実績があれば、19人全部を認めますよ」
 またサッカー協会の竹腰理事長は次のように説明したという。
 「われわれの目標は銅メダルだ。少なくとも東京オリンピックの実績からみても、8位以内にははいり得ると思う」
 ぼくの考えでは、JOCの常任委員も、竹腰理事長も、問題のポイントを間違えている。
 サッカーは、昨年の10月に、JOCの承認を得たうえで、アジア地域予選に出場し、そしてそれを勝ち抜いたのだから、メキシコ・オリンピックに出場するのは、当然の義務であり、また当然の権利なのだ。
 出場させるかどうかは、予選の前に論ずべき問題である。
 そして出場する以上は、規定の許す限り、じゅうぶんな戦力を与えるのが当然だ。メダル獲得や入賞の目標は、これとは一応無関係である。

片足で走れ
 サッカーはチーム・ゲームである。1チームが個人競技の1人と同じだ。陸上競技の100メートルで、外国の選手は両足で走るのに、飯島選手だけ片足で走れといわれたらだれだって不公平だと思うだろう。
 ハンガリーは19人で参加するのに、日本は18人。飯島選手に片足で走れというのと同じだ。
 くり返していう。
 このことにJOCは責任を負うべきである。


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