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(サッカーマガジン1974年3月号 牛木記者のフリーキック


日本のヤングは目白押し

 同じものを見ても意見がまるで反対に分かれることがある。どちらかが正しく、どちらかが間違っている、ということではなくて表から見るか、裏から見るかの違いである。
 ブラジルのジュベントスとルーマニアのFCコンスタンツァを迎えて行なわれた三国対抗で、日本代表と日本選抜の2チームに若い選手がたくさん選ばれた。このヤングたちに対する評価が、やはり、まっぷたつに割れた。
「若手はまだ頼りにならん。三国対抗での試合ぶりは、タイをなしていなかった」と辛い点をつけた人が記者席には多かった。「このままでは日本代表チームの前途は多難だ」と厳しい記者たちは警告する。
 ぼくの意見は、まるで反対である。
 今回の三国対抗は、日本のヤングの層の厚さを示した大会だったと、ぼくは思う。したがって日本のサッカーの前途は、実に洋洋たるものがある。
 プログラムを見ると今回参加した日本代表と日本選抜の39人の中で24人が22歳以下である。これは完全にヤングの部類に入れていいだろう。そのすぐ上の23歳が5人、24歳が3人。このあたりは準ヤングといっていい。ここまで入れると全選手の5分の4以上が「ヤング」である。
 この若い顔ぶれで、よくブラジルのプロを相手に1、2点差の試合をし、体格もパワーもある東ヨーロッパの強豪と引き分けたものだと思う。「点差はともかく内容がよくない」と厳しい人はいうだろうが、まあ聞いてもらいたい。
 今回、日本選抜のFWして活躍した藤和不動産の渡辺三男君は20歳である。昨年春のスペシャル・カップのときに見て「若いくせに、ものおじしないでずうずうしいドリブルをするな」と感心したことがあるが、FCコンスタンツァに対しても、同じように、ずうずうしいドリブルをみせ、みごとなシュートをバーにぶつけた。その心臓ぶりに、ぼくはまた感心した。
 読売クラブの岡島俊樹君は18歳。「左足のシュートの強さだけなら釜本級」というところだけを買われて初めて選抜に入った。なにしろ毛色の違う相手と試合をするのは初体験で、グラウンドに足がつかないんじゃないかと思って見ていたら、最初にボールにさわったチャンスに、左にまわり込んでお得意のミドル・シュートで相手のゴールキーパーをおびやかした。彼らが今回の三国対抗で日本チームの主軸だったとは、ぼくだっていわない。チームを動かしたのは、やはり少数のベテランであった。
 彼らが9月のアジア大会のときに、日本代表チームの役に立つだろうとも思わない。自分の得意なプレーが一つだけあるくらいのことでは、公式の国際試合では手も足も出ないだろうからである。
 しかし、ヨーロッパや南米のプロクラスを相手に、自分の得意なプレーを初舞台で披露してみせるなんてことは、10年前の日本のサッカー選手は、考えられなかったことではないだろうか。
  こんなヤングが目白押しなんだから、日本代表チームの将来は楽しみである。どうか彼らに国際試合の経験を積むチャンスを、たくさん与えてやってください。


引き抜き防止規定を作れ

 バレーボールの話だが、富士フイルムの岡野昌弘という選手が、新チームのサントリーに引き抜かれた。「引き抜き」というと岡野選手とサントリーの側には異議があるかも知れない。岡野選手は富士フイルムを退社し、改めてサントリーに就職したのである。「職業の自由は憲法で保証されている」というだろう。
 しかし職業を変更したのは「岡野昌弘氏」であって「岡野昌弘選手」としての立場は、また別である。岡野選手は、富士フイルムという会社ではなくて、「富士フイルム」というチームの選手として日本バレーボール協会に登録されていた。別のチーム「サントリー」に選手として登録するためには、「富士フイルムチーム」の承諾を得て、前の登録を取り消さなければならない。ところが、完全な承諾を得ていなかったために、もめごとになった。すなわち “引き抜き” である。
 バレーボールの場合には、移籍に関するちゃんとした規定があって、こういうケースでは「富士フイルム」チームが承諾しない限り岡野選手は2年間の出場停止になる。これは引き抜き防止のための規則であって、「職業の自由」とは別の話である。
 岡野選手が勤務先を変更するのは「職業の自由」だが、日本バレーボール協会にとっては、岡野氏の勤務先と岡野選手のバレーボールをするチームが、必ずしも同じ名称である必要はない。「八百善」の旦那や「魚勝」の小僧さんが「甲府クラブ」でサッカーをやっていささかの支障もないのと同じである。一つのチームを、一つの企業の社員で構成するかどうかは、チームの方の問題であって、協会としては、岡野昌弘選手がサントリーで働きながら「富士フイルム」チームでプレーしても妨げはしない。だから、これはけっして「憲法違反」でもないし「スポーツをする権利の侵害」でもない。ただ、むやみな引き抜きによるスポーツ界の混乱を防ぐための規定である。
 日本のサッカーにも、このバレーボールのような引き抜き防止規定を作るべきだと思う。日本蹴球協会が昨年作った移籍規定は、外国からの移入選手とシーズン中の移籍を制限したもので、バレーボールの規定とは趣旨が違う。
 サッカーの場合にも、移籍には原則として前の登録チームの承諾証明を必要とするようにしなければならない。前のチームの承諾が得られない場合には、たとえば、とりあえず3か月の出場停止にしておいて、その間にしかるべき機関が事情を調査する。前のチームが不当に選手を引き留めているのでなければ、少なくとも1年間の保留処置が必要である。
「サッカーには、バレーボールのような引き抜きはないから、防止規定は必要ない」という人がいたら、日本リーグのできる以前から引き抜きがあった例を、いくつかあげてみせることができる。ただ関係者がほおかむり、ないし泣き寝入りをしただけである。


競技規則のペーパーテスト

 高校サッカー決勝の藤枝東高の同点ゴールが本当にオフサイドだったのかどうかについて、たくさんの投書をいただいた。それで審判技術の問題について書こうと思ったのだが、それは別に特集をやるそうだから、ここでは別の角度から取り上げることにする。
 審判の判定を、第三者のファンや報道関係者が批判する場合、批判する方の人は、少なくともサッカーの競技規則や審判法について、ある程度精通していなくてはならないだろう。批判すること自体がいいか悪いかは、ここでは一応別問題としておこう。
 そこで読者のみなさんの知識をテストするために、次のような問題を作ってみた。

A 得点が認められるのは、ゴールポストの間のゴールラインをボールが、どれだけ通過したときか。
(@) ボールの一部がラインにふれたとき
(A) ボールの中心部がラインを越えたとき
(B) ボール全体が完全にラインを通過したとき

B 対角線審判法で線審は、なにを目標に移動するか。また、その理由は?
(@) 攻撃の最前線の選手
(A) 守備の最後尾の選手
(B) 守備の後尾から2人目の選手

C 競技規則第12条で、直接フリーキックになる反則は「故意に違反をしたときに罰することになっている」が、間接フリーキックになる反則については「故意に」の文字がない。この違いがある趣旨を、実際に審判をするときの判定基準とともに説明せよ。

 答は各自で考えていただくことにする。Aは初級向き、Bは中級向き、Cは上級向きの問題だが、いずれも基本的なもので、審判問答によくあるような、めったに起きないケースについての “クイズのためのクイズ” ではない。Aの程度の問題は、サッカーを知っている人なら、だれだってできると思われるだろうが、同じ程度の問題を、10くらい集めてやってもらうと案外、間違えるものである。Cのような考え方を問う問題は、必ずしも一つだけ正解があるというものではない。
 さて、読者のみなさんは、審判批判を堂々とやるだけの自信を持つことができただろうか。
 同じようなテストは、審判員の方には、なおさら必要かも知れない。一級審判の昇格試験のときに、ペーパーテストをやっているが、実際に試合を担当させてみての評価に重点が置かれていて、ペーパーテストの成績は、合格にはたいして影響がないらしい。しかし、1級審判を志すほどの人は、A、B程度の問題は、百問百答でなければ困るし、Cのような問題についても十分にディスカッションをしておいてもらいたいと思う。

 

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