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(サッカーマガジン1973年4月号 牛木記者のフリーキック


ライセンスは万能ではない

 近ごろ、サッカーをやっている少年たちの中に「大きくなったらドイツに行って勉強して、コーチの資格をとるんだ」という子がいるそうである。ちょっとクスリが効きすぎたかな、と心配である。
 4年前に、クラーマーさんが、日本にコーチ制度を確立する必要を説いて、コーチング・スクールをはじめたとき、ぼくたちは大いにチョーチンを持って、公認コーチのライセンスを持たないようでは、指導者の資格はないようなことを書いた。それが、ちょっと行き過ぎたのではないか、と思うわけだ。
 実のところ、サッカーの公認コーチ制度はまだはじまったばかりだから、公認コーチの資格をとっていない人の中にも、優秀な指導者はたくさんいる。早い話が日立を二冠王に導いた高橋英辰監督は、たしか公認コーチのライセンスは持っていないと思うし、いまさらコーチング・スクールに入学でもあるまいと思う。紙切れに書いた資格なんかなくったって、高橋さんは押しも押されもしない、日本で第一級の指導者である。
 逆に、コーチ制度の本場の西ドイツヘ行って、向うの公認コーチの資格をもらって来たところで、それで優秀なコーチだという折り紙がついたわけではない。コーチとして大事なのは実績である。良い選手を育て、良いチームを作りあげて、はじめてライセンスがものをいう。ライセンスを持っていれば、いきなり、ブンデス・リーガや日本リーグのチームの監督として腕をふるえると思ったら心得違いである。
 公認コーチのライセンスは「サッカーを教えるには、せめて、これくらいは心得ていてもらいたい」という最低限の要求を満たしていることの証明書程度のものだ。医学部を卒業して、医師の免許をとったばかりの新まいのお医者さんが大きな顔をできないのと同じ理屈である。
 しかも、医師の免許と違って、サッカーのコーチは、ライセンスがなければできないというものではない。コーチング・スクールで試験に落第した人でも、現場で良いチームを作り上げる可能性はじゅうぶんにある。なぜなら、ライセンスのようなものは、各方面にバランスのとれた能力を要求するが、勝負の世界には、バランスはとれていなくても、一芸に秀でた人がいるものだからだ。
 ライセンスを持っている人たちが、自分の能力を過信しないよう警告したい。


ミニ・サッカーに賛成

 2月25日に、東京の駒沢室内球技場で行なわれた「第1回ミニ・サツカー招待大会」を見た。
 日本リーグ・チームの試合のほかに、観客の中から飛び入りの子供たちや女の子の試合もあって、なかなかの盛況だった。“ミニ・サッカー” とは、うまい名前をつけたものである。あえて “室内サッカー” としなかったところに、企画をした協会若手役員の深謀遠慮がわかる。たまたま第1回は室内でやったが、別に体育館でやらなくてはいけないというものではない。屋外のせまい空地でも気軽にボールをけって遊ぼうというのが趣旨である。
 そうかといって “5人制サッカー” と名付けると、正規の11人制サッカーとは別の競技が新しく誕生したような印象を与える。実は人数は5人と限ったわけではなくて、6人でも7人でもいいわけである。またミニ・サッカーは、本式のサッカーへの導入部、あるいは練習の手段であって、サッカーの変種ではない。そこんところがミニ・サッカーということばに、うまく表現されている。
 熊本では、もうずっと以前から緒方健司氏の提唱で、5人制サッカーの大会を1月に屋外でやっていた。先見の明である。
 十数年前に東大の監督だった横山陽三氏は、東大の職員のシロートばかりを訓練して “東大ダックス” というチームを作っていた。そのダックスは、毎日昼休みに東大構内の屋外バスケットボール・コートでミニ・サッカーをやっていた。これは遊びと訓練とを兼ねていたようだ。そうしているうちに、ダックスのシロートは、11人制でも立派にやれる選手になった。
 ミニ・サッカー大会を見て思ったのだが、小学校の授業のサッカーは、ミニをやればいいと思う。
 校庭で何組も一度にできるし、5分ハーフぐらいでも結構楽しめる。一定時間内に、多勢の子供たちにサッカーの面白さを教えるのには非常にいい。
 女の子のサッカーもミニがいい。これは、うまく持っていけば、はやると思う。駒沢の飛び入り試合でも、なかなかいいドリブルシュートをした高校生がいた。
  駒沢でやった大会はPRのためだから、テレビ中継をしたのは悪くないと思うが、ぼくの考えでは入場料をとったのは良くない。有料試合は正規のゲームだけにするべきだ。そのへんのけじめは、つけなくちゃいけない。


地方で国際試合をするには

 1月にチリのウニオン・エスパニョーラが来たとき、神戸で1試合をした。兵庫県の協会の人の話だと、日本蹴球協会に納めるギャラが 300万円、そのほかに東京−神戸の往復旅費と神戸での滞在経費を持つので、合計700万円かかるという。1,000円の入場券で、7,000人集めないと赤字になるわけである。この条件は過酷過ぎると思う。実際には、当日どしゃ降りの雨で、有料入場者3,538人。売上げは300万円余りだったらしい。大赤字である。
 この試合の前日には、同じ競技場で日朝高校交歓サッカーの試合があった。こっちは好天の日曜日に恵まれて、有料入場者11,354人。これは日本蹴球協会が入場料収人を全部吸い上げ、地元の協会には、試合運営の経費だけを払った。だから、いくら、観客が多くても、地元の協会は関係なしである。
 このやり方は、どちらもよくないと思う。
 ウニオン・エスパニョーラの場合は、地元の負担経費が高過ぎる。こんな条件で引き受けた兵庫県はどうかしている。400万円ほど出たはずの赤字は、どう処理したのだろうか。700万円の負担というのは、実際は建て前だけで、赤字の場合は中央で肩代わりしてくれたのだろうか。そのへんが、いささかあいまいである。
 日朝高校交歓サッカーの場合は、地元は労カさえ提供すれば、赤字を出す危険はない。その代わり、もうけるチャンスもないから、一生けんめいやる気にもなれない。看板を5枚出すところを2枚にして、なるべく手間のかかることはやめて、消極的にやった方がトクということになる。
 実際に、兵庫に行ってみたら、地元の関係者は、なんとか700万円の方で赤字を出さないようにしようと頭がいっぱいになっていて、もうけにも、損にもならない日朝高校の方には手がまわりかねている印象だった。日朝の方にお客さんが、いっぱい来たのは、在日朝鮮人団体の努力のおかげで、地元協会の功ではない。
 地方で国際試合をやるには、ギャラで引き受けさせる方式がよいと思う。ただし、ギャラの額は適正で、地元協会が努力すれば、十分に地元に利が残るようでなければならない。国内輸送費や宿泊費は中央でプールして予算を組むべきである。バレーボールや卓球の国際試合は、その方式でうまくいっているようである。

 

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