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(サッカーマガジン1972年6月号 牛木記者のフリーキック


習志野サッカーの朝鮮訪問

  1月の高校選手権で優勝したメンバーによる習志野のサッカー・チームが、5月に朝鮮民主々義人民共和国を訪問することになった。これに対して「朝鮮はAFC (アジア・サッカー連盟) に加盟していないから、試合をしてはいけないんだ」というような議論があるようだ。これは間違った考え方だと思うので、今月は「AFCと朝鮮」について、ぼくの意見を述べておきたい。
 こんど朝鮮を訪問するチームは最初新聞に “習志野高” と報じられたが、正確には “高校チーム” ではない。1月に優勝したチームの主力は、ほとんど3月に卒業して若いOBになっている。
 したがってピョンヤン (平壌) へ行くのは「習志野・習友サッカー訪朝団」ということだそうだ。「習友」というのは、習志野高校の同窓会の呼称である。こういう性質のジュニアのチームに対してAFCを持ち出すのは適当でないとぼくは考えている。
 しかし、日本と朝鮮とのサッカー交流は、今回だけではないし、この種の方式に限るというわけではない。近い将来、日本リーグ加盟チームの交流や、ナショナル・チーム同士の試合をする機会がくるだろうと思う。そういうときにAFCの規則がじゃまをするといけないから、このさい問題点をはっきりさせておいたほうがいい。
 最初にAFC (アジアサッカー連盟) とは何か、を説明しよう。AFCは、FIFA (国際サッカー連盟) に加盟しているアジアの国のサッカー協会が集まって結成しているグループである。FIFAは、全部の加盟国を、ヨーロッパ、北中米、南米、アフリカ、オセアニア、アジアの6グループに分けて、それぞれの地域連盟を承認している。AFCはアジアの地域連盟であるべきものである。
 ところで、このAFCの規約第27条に「AFCに加盟している国の協会およびそのクラブ (登録チーム) は、AFC理事会の同意を得なければ、AFCに加盟していない国の協会およびそのクラブと試合をしてはいけない」という条項がある。問題になっているのはこれである。


なぜAFCに入っていないか

 ここで二つの疑問にぶつかることになる。一つは「朝鮮はなぜAFCに入っていないのか」ということであり、もう一つは「AFCには、なぜこんな制限規則があるのか」ということである。まず第一の「朝鮮がAFCに入っていない事情」から説明しよう。
 AFCが結成されたのは1954年マニラで第2回アジア競技大会が開かれたときである。竹腰重丸氏 (いまの協会理事長) が、協会の雑誌「蹴球」第12巻第1号に、その報告を書いている。それによるとAFCは「FIFA及びAGFとの関連を考え、統制力を持つものとせず連絡機関とする」ということで発足した。AGFはアジア競技連盟のことで、4年に1回のアジア競技大会を主催する団体である。
 このようにAFCは、アジア大会参加国によって発足した。朝鮮はアジア大会参加国ではないし、また当時はFIFAにも加盟していなかった。したがって結成当時AFCに入らなかったのは当然である。
 朝鮮がFIFAに加盟したのは1958年、スウェーデンでワールドカップが開かれたときである。この報告は当時、FIFA理事だった市田左右一氏が、協会の雑誌「サッカー」1959年1月号に書いている。
「北鮮協会については南鮮の反対演説があって、票決の結果通過」「28対6で北鮮の入会を認めた (棄権が28カ国もあった)」とある。
 この時点で朝鮮をAFCに加盟させるべきであった。それがFIFAのサー・スタンレー・ラウス会長の意向であり、それを受けて市田氏がAFCの会議で “朝鮮の招請” を提案したりした。
 しかし、AFCは猛反対で “時期尚早” を理由に、取り上げなかった。
 1962年、ジャカルタで第4回アジア競技大会が開かれたとき、はじめて朝鮮の代表6人がオブザーバーとして出席することができた。これはラウスFIFA会長の尽力によるものだったといわれるが、AFCはまたも朝鮮の加盟を棚上げした。
 このときの記事が協会の雑誌、「サッカー」26号にのっている。
「北朝鮮は8月10日付でAFC加盟を正式に申し入れた。これらの問題は9月4日の総会で討議されたが、最終的結論は得ず、北朝鮮加盟は新しく選任された理事会に取り扱いを一任された」とある。それ以来、この問題は棚上げされたまま ―― である。


AFC第27条は無効である

 AFCがFIFAの承認する正式の地域連盟であるならば、その地域のFIFA加盟国をすべて含まなければならない ―― これがFIFAの考え方である。ラウス会長は1962年のジャカルタのアジア大会のときに「FIFA加盟国を平等に扱うようAFCに要求する。そうなった場合にはじめて、AFCをアジアにおける唯一最高のサッカー統括団体として認め、公式の関係を広げることになろう」と述べている。
 以上の経過をみれば次のことが分かる。
 (1)朝鮮がAFCに入っていないのは、AFCの側のせいである。
 (2)朝鮮を入れない状態では、AFCは “FIFA承認” の地域連盟として “完全な権限” を持つことはできない。
 (3)したがって少なくとも朝鮮にからむ問題に関しては、AFCは単なる連絡機関であって、統制権を持ち得ない。
 このような歴史的な経過をみれば、AFC非加盟国との対戦を制限した規約第27条が、朝鮮に関して拘束力を持たないことは明らかだと思う。事実、AFCの加盟国のチーム、それもナショナル・チームが、朝鮮のチームと対戦したことは、これまでに何度もある。
 1966年には、インドネシアやカンボジアがピョンヤン (平壌) に行って友好試合をしている。しかしAFCが不同意をとなえたり制裁したりしたことはない。つまり第27条は、AFCが自分のほうから、わざと「眠らせている」条項なのである。
 蛇足かも知れないが「AFCになぜ、そんな規則があるのか」についても、簡単に触れておこう。国際スポーツ団体はたいてい、このような “非加盟国との対戦禁止規定” を持っている。FIFAも同じような規定を持っている。
 なぜ、こんな規定があるのかをFIFAのラウス会長に、直接きいたことがある。ラウス会長の答は、
「FIFAは加盟国同士でサッカーをやろうという、いわば一つのクラブのようなものだからだ。クラブの統制を守るための規定だ」ということだった。つまりサッカーを統轄する国際団体が、他にできないようにするのが本来の趣旨である。
 AFCの場合は、FIFA加盟国に対して、このような制限をする理由はまったくない。AFCの立ち場を強化しようと思うなら、逆にFIFA加盟国をすべて仲間に入れるように努力するのが本当である。


朝鮮との交流を推進しよう

 朝鮮とAFCの問題は、そう遠くない将来に、FIFAでまた取り上げられるに違いない。ラウスFIFA会長はFIFA・NEWSの最近号で「アジア地域にあってAFCに入っていない国の協会とAFCの関係」は、早急に解決しなければならない、と述べている。1974年に引退するといわれている同会長は、それまでに、朝鮮とAFCの関係を解決し、地域連盟の世界的組織を確立することを決心しているように思われる。
 このような状況の中で、日本のサッカーが、どういう態度をとるか ―― これは重要な問題である。
 日本蹴球協会の中のある人は、「われわれは韓国とも北朝鮮とも仲良くサッカーをやりたいと考えている」といっている。それが基本的な方針であるならば結構である。
 AFCの眠っている条項をたたき起こしてきて、時計の針を逆に回すような努力に利用するようなことは、して欲しくない。
 朝鮮民主々義人民共和国と交流をしたいという日本のチームがあれば、それが実現するように積極的に支援するくらいであって欲しい。
 また近い将来、朝鮮からのチームを迎えることになった場合は、協会が中心になって歓迎する姿勢をとるべきだと思う。
 韓国のサッカーとはつき合うなといっているわけではない。朝鮮と韓国との関係をどうするかは、朝鮮民族の内部の問題であって、われわれが軽々しく口出しをしてはならないと思う。これはまた、別の重要な問題である。

 

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