(サッカーマガジン1972年2月号 牛木記者のフリーキック
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2部リーグヘのすすめ
日本リーグの “2部” を作る案が具体化してきて、この原稿を書いている時点では「10チームで来年4月に発足」というところまで煮つまっている。現在の日本リーグと合わせて全国リーグが計18チームになるわけだ。
“18” というチーム数が適当かどうか。協会は、日本のサッカーの将来を見通したうえで、この数を決めたわけではないようだ。11月に佐賀で開かれた全国社会人大会のときに、協会の首脳部は、「この大会のベスト8のチームに2部リーグ参加資格を与えたい」と述べた。ところが、社会人の大会は勝ち抜きのトーナメントだから、全国リーグ参加希望チームの中で、1回戦で上位進出チームに当たって敗れたり抽選負けで準々決勝に進出できなかったチームが出てきたのである。それで納まりがつかなくなって、10チームに増やしたというわけである。もともと8チーム案も格別の深い思慮あってのことではなかったのだ。
「2部リーグのすすめ」を、ぼくはサッカー・マガジンの昨年2月号に書いている。そのときに、「社会人大会によって、日本リーグ出場チームを決めるのは間違っている」と書いたはずである。勝ち抜きの短期決戦では、長期のリーグに耐えるチームが勝つとは限らないからである。
こういう考え方は、まったく無視されたらしい。全国リーグには、各地域リーグの上位チームを選ぶのが適当である。それには、前年度の地域リーグがはじまる前に「来年は地域リーグの上位を全国リーグに入れますよ」と予告しておかなくては公平でない。だから先月号の「フットボール断想」で秋庭亮氏が書いておられたように、スタートを1年延ばすべきだったのである。秋庭氏と同じ意見を、社会人大会のときに、関西の代表が述べたが、これも取り上げられなかったそうだ。
軽率だったとは思うが「全国リーグ18チーム案」が決定的となったので「2部リーグヘのすすめ」を書いておく。
(1) 1、2部の間の入替え戦はやめ、下位と上位が自動的に入替わることにする。
(2) 各地域協会には、将来、少なくとも各1チームずつ全国リーグ参加チームを出す権利を持たせる。当面、適当なチームを出せないところは仕方がない。
(3) 1部と2部は同じ「日本リーグ」の組織にふくまれる。運営が別になるのは、現在の経理のやり方ではやむを得ないが、一つの団体の中で分けて運営する。
理由はサッカー・マガジンの読者なら、お分かりいただけると思うが、協会の関係者からは、また無視されるのが落ちかも知れない。
■ ハーフタイムの注意
試合のハーフタイムに、何をすべきだろうか。
砂糖とレモンを添えた、あたたかい紅茶を用意する。これは近ごろ、たいていのチームがやっている。
負傷した選手がいたら、傷の程度を点検して応急処置をする ――。これも当然。
選手たちに注意を与える。だれが? どんなふうに? これはチームによって、だいぶ “家風” が違うようである。
1971年度の全国大学選手権大会は、決勝戦を国立競技場でやったほかは、連日、東京郊外、多摩丘陵のよみうりランド内読売サッカー場で行なわれた。ここは「みんながサッカーをする」場所であって、「いい試合を見せるため」の場所ではないから、「選手権をこんなところでやるとは……」と評判が悪かった。もっとも、大学選手権の試合が、大スタジアムで見せるべき模範であったかどうかは保証しがたい。
フィールドのそばにロッカー・ルームがないので、各チームともグラウンドのわきの芝生でハーフタイムの注意をしていた。準決勝の早大対東教大の試合のときは、たまたま、ぼくの座っていた斜面の前で、早大がミーティングをした。早大1−0のリード。
早大の監督は、ベルリン・オリンピック代表の名バック、有名な経済学者の堀江忠男教授である。最初に簡潔で適切な注意をした。
「フォワードが守備を心がけて、ハーフと協力して教大に中盤から簡単にボールをけらせないようにしよう。それだけだ」という趣旨だったと思う。バック出身なのに、バック・ラインヘの注意はなにもしなかった。考えあってのことだろう。ぼくのみたところ、前半の早大のバックは、相手のポジション・チェンジにまどわされなかったという点では無難に切抜けていた。
堀江監督のあとで、別の人 (多分コーチだろう) が「八重樫さんは、バックのマークがあまいといっていたぞ。注意しろ」というようなことをいった。
次には、また別のOBが選手たちをつかまえて、いろいろいいはじめた。
最後にキャプテンが最初に堀江監督のいったのと同じ趣旨のことをしゃべったが、そのときには選手たちの注意力は、てんでばらばらになっているように見えた。
結局、早大は後半に逆転負けしてしまった。敗因はハーフタイムのせいばかりではないだろうが、ハーフタイムに、いろいろな人が、いろいろなことをいうのは選手を混乱させるだけだと思う。監督ひとりに任せて、簡単なポイントを浸透させたほうがいい。
早大のみなさん、ごめんなさい。別に盗みぎきしたわけではない。また早大の“家風”のよさも知らないわけではありません。
■ 入場料はだれのもの?
日本リーグの発表では、観客動員数は横ばいだったそうである。しかし、ぼくの感じでは、有料入場者の実数は落ちているはずだと思う。ぼくが見に行けない地方での試合でカバーしているのかも知れないが、東京での観客数は減っている。現実に目をおおうようではいけない。
もっとも、他のスポーツの関係者で「ミュンヘン予選で負けて、がっくりかと思ったら案外盛況ですね」といってくれた人もいる。そうかも知れないが、サッカーの場合は、横ばい程度では困る。相当の成長率でいかないと外国に追いつくわけはない。
日本のサッカーの観客増加を妨げている決定的な原因が一つある。それは試合の入場料収入が、地元チームのものではない、ということである。これが外国のリーグとの根本的な違いである。日本リーグの場合は、収入はすべてリーグでプールして、旅費、宿泊費を各チームに分配する仕組みになっている。地元のファンを育て、地元試合の観客を増やしても、地元の収入にはならないのだから、地元チームが一生懸命に入場券を売るということはない。
外国のリーグでは、地元のチームが試合を運営し、収入も基本的には地元のクラブのものである。だからファンの育成にも身を入れるし、地元に専用サッカー場を作るかいもある。リーグに出すお金は、リーグそのものを運営する事務的経費をまかなうだけでいい。
サッカー協会が主催するFAカップのような試合でも、入場料収入は、まずチームのものである。イングランドのFAカップの場合、入場料収入の中から訪問チームの旅費と試合の運営経費を除いた金額を分配するが、予選試合(ベスト64まで)では、対戦した両チームで分けてしまう。本競技会
(ベスト64以降) では、75%を両チームで分け、25%をプールに集めておいて、最後に全参加チームに分配する
(したがって結局は全額がチームのものになる)。
協会がとるのは準決勝と決勝の25%だけで、この場合は50%を両チームで分け、25%をプールに出す (再試合のときは別の比率が決められている)。
両チームで分けるのは、FAカップがホーム・アンド・アウェーではないからで、リーグならば地元チームが全額とるわけである。
イングランドは、プロ・チームの試合だからだろうと思うのは間違いで、FAアマチュア・カップの場合も、ほほ同じ規定である。
このように、入場料収入は、基本的にはチームのもの、リーグの場合は地元チームのものである。そういう考え方をしないと、たとえ日本リーグの2部ができても、甲府クラブのようなチームは、成り立たなくなるし、観客を増やす気にもなれないわけである。
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