まずアジアのタイトルを! (1/2)
長沼新監督にきく ― 聞き手/牛木素吉郎
(サッカーマガジン1972年1月号)
停迷している日本代表チームに活を入れるために、長沼新監督の再登場となった。そこで牛木素吉郎氏をわずらわして
“日本代表チーム再建の抱負” をきいた。まず、アジアのタイトルをねらう新監督の第一声……
■ すべて監督の責任でやる
―― 新しいナショナル・チームのリーダーを今後どういうふうにするか、この間、日本チームの責任者を決める会議がありましたね。そのいきさつを聞かしてください。
長沼 日本協会では、委員会が案を作って、それを常務理事会が決定するという組織になっておりますね。現在16名の委員がおりますが、フレッシュな人という話もありました。私はズバリ平木君にやってほしいと発言したんですが、本人から固い辞退がありまして……。
―― それで長沼さんの再登場となったわけですね。代表チームのほか、大学もユース、ジュニアもある。これらの分担のやり方は、今までと違いますか。
長沼 そうですね。今までは、ナショナル・チームにまず最重点をおく。そしてジュニア、ユースというふうに、順次という感じがあったと思います。それが今度はそういうことじゃなくて、余力をそっちへさきなさいということじゃなくて、ナショナル・チームはだれがやる、ジュニアはだれがやる、ユースはだれがやると、柱を立てて仕事をすすめていく。これまでは、ユースで問題がある、協会へ相談にいったら、だれに話をしていいかわからないというので困る。そこで今までとはちょっと違った分担制の組織を作れということで、委員会ができたということです。
―― そこでナショナル・チームは長沼、大学は八重樫、ジュニアは松田ということに決ったわけですね。
長沼 1人でやるわけじゃない。必ずコーチなり、パートナーが必要です。これについては、広い立場で、これと思う人が取り組んでやっていく。
―― 総理大臣が諮問機関を持っているようなもので、やる以上は自分の責任でやるんだ。勝てば自分の功績であるし、負ければ自分の責任であるというくらいの、強烈な個性を持って仕事をしてもらいたいと思うんですよ。
長沼 それはもちろんです。それには、責任をもって選べということですよ。みんながこれでいいや、じゃあやろうというんじゃ、お仕着せみたいなものですからネ。選手にしても同じだと思います。
―― ナショナル・チームの責任者が、自分の使い得るコーチを選ぶことが、本来のたてまえじゃないかと思いますが。
長沼 そうです。そして選手の選考も、今度は、監督、コーチに決った男が、責任を持ってやるということ……。
―― それはいいです。選手を自分の好きなように選べないで、敗戦の責任だけ問われたんじゃ、とても監督はやれないということですね。
長沼 おれはこの男にほれたんだというんで、使っていくんでなくちゃまずい。
■ 勇気を持って新人を起用
―― それはいいことですね。ところで、監督としては、何を目標にするかという点をうかがいたいと思います。
長沼 その点は今までもやってきたんですけれど、はっきりとつかめているようで意外とつかめていないんじゃないか、ということがあるんです。オリンピック予選も大事、ワールドカップ予選も大事だし、ムルデカ大会も大事だ。しかし、なんといっても、アジアで一度も勝っていない。まずそれに挑戦しなきゃならないということ、そこにまず目標をもっていこうということが、選手にとっても、一番じゃないかと思います。
―― アジアのタイトルを取ることを一つの目標にするというのはいいですけれども、目標がたくさんありますね。夏にはムルデカがあり、73年にはイランでアジア大会がありますね。
長沼 一度タイトルを握らないうちは、アジアで大きな顔はできないですよ。何も大きな顔をしたいわけじゃないけれども
(笑)。勝負の世界というのは、そういうものだと思うんです。
―― 新しいチームをもっていくのに、夏のムルデカか、翌年のアジア大会にもっていくかでは考え方が違うと思うんですが、その点はどうですか。
長沼 原則はあくまで、その時点でのベスト・チームということを念頭においてやっていきたい。ただそのベスト・チームというのが、このくらいしとけば安心だろうという組み方と、もう一歩進んだ組み方、新陳代謝を加味したベスト・チームの線があると思うんです。安心だからそのメンバーを出していく。そしてはっと気がついたときは、次が伸びてきていない。理想からいえば、1人去って1人入ってくるというのがいいのですが、そうはなかなかいかない。しかしやっぱり理想に近かづくやり方があると思うんですよ。
具体的にいうと、ジュニアに国際ゲームをやらせる。早くナショナル・チームに入れて、ナショナル・チームの中でテストをやる。そういう機会を積極的に持つ。国内でまずいことをやったからといって、そんなことにかまっているうちに新進気鋭の伸びが止まっちゃ困るので、勇気を持って起用していく。ユースでどこまでできたか、ジュニアはどうだ、ナショナル・チームの中で、どこまでできるかということが必要なんです。
―― そうですね。今はわりと違ったタイプの選手が出てきている。南米ほどではもちろんないが、16、17歳で、先きはどうだということが、かなりわかると思うんです。
現在を見ても、永井、崎谷、足利、みんないわば西宮 (注・高校選手権) のエースですよ。だからもっと早く入れられるんじゃないか。
長沼 だからそういう階層をヨーロッパ遠征みたいなスケジュールに入れていく。あるいは、次の試合を考えない代表候補の合宿をやるとか……。試合があると、すぐコンディショニングの問題など、うるさい問題が出てくるので、とことんまでやってみるということができない。そうした新旧取りまぜた中でのテストもできるわけです。それなしに、高校ですばらしい試合をやったから、今度海外へいくとき入れてみよう、それじゃいかんですからね。ものすごい成績をあげてくれるなんてことは、だれも期待していないんですから、ただある種の可能性を感じさせてくれるということが大きいんですよ。
―― 何か、サムシングを持ってるということですね。
長沼 そうです。永井はゴールに対する特異な感覚というものを感じさせてくれましたよ。あれはこれから、どんどん伸びるでしょうが、ナショナル・チームに入る前に、強化合宿みたいものを経験したら、もっとよかったなという気がしますね。
―― 日本では全日本第一ということで、それは非常にいいことなんですけれども、そのために全日本を預る監督としては、どんな試合にもベスト・メンバーを組んで勝たなくちゃ申訳が立たないということがありますね。
長沼 まあそういういい方もできますね。全日本からお座敷がかかるってことは、圧倒的に本人の刺激になるし、ひいてはチームにとって非常にいいことでしょうが、きょうからこいとか、あしたからこいみたいなのは困りますが、前もって十分に通知があるものについては、何とでも協力してくれると、みんないっていますのでね。だからといって、今までのやり方で決していいのではない。日程の整理をしてくれ。リーグ開幕の1週間前に全日本でけがをした選手が帰ってきた。これじゃあ困る。少なくとも3週間前には選手を帰してほしいというわけです。代表チームにとられた。ちょちょっとやってホーム・チームに帰ってきた。機械じゃないからそんなことはできないですよ。ヤンマーのパーツをつけてやって、またはずして全日本用のパーツをつけるなんてことは、できないですよ。
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