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中学生のサッカーを盛んにしよう
(サッカーマガジン1970年3月号 牛木記者のフリーキック)


全国中学生大会を計画

「中学生のサッカーを盛んにしよう」というのが、今月のぼくの意見です。
  この雑誌が出るころには、案が固まってくると思いますが、今年から「全国中学生サッカー大会」を開こうという計画が立てられています。
  大会の名称や期日や会場はまだ確定したものではありませんが、多分夏休みに、東京か、東京の近県で開くことになるでしょう。
  昨年まで、中学生以下の児童生徒の全国的なスポーツ競技会は、水泳など、ごく一部を例外として原則的に禁止されていました。
  これは文部省から出ている次官通達というものがあって、少年少女の全国大会は、参加者に負担がかかりすぎるからやらないようにと、お達しがでていたためです。
  この次官通達は昨年改正されましたけれども、その大筋は、それほど変わってはいません。
  中学校の場合は、試合は「隣接県ていどの範囲に止める」ことになっています。
  東京と神奈川の中学校同士でやる試合はよいが、埼玉と神奈川は好ましくない、というわけです。
  ただ、これは、“学校教育活動の範囲内で、行なわれる場合は” という制限です。学校教育活動外 ― つまり “社会体育” としてなら話はべつだ、というので「全国中学生サッカー大会」のプランが出てきたわけです。


社会体育として実施

 “社会体育” としての青少年のスポーツは、どうすればよいか ― を決めるために、昨年「青少年運動競技中央連絡協議会」が、日本体育協会を中心に、中学校体育連盟やPTAの代表などを集めて、作られました。日本サッカー協会の野津譲会長も、その首脳部のひとりです。
  この協議会で、12月に「学校教育活動外の青少年運動協技会の基準」というものを決めました。
  その中では、13歳から15歳までの生徒(つまり中学生)の大会は、「地域大会の範囲に止どめること」になっています。つまり、関東大会、関西大会ならよいということです。
  しかし、これには、ただし書きがあって、「体力にすぐれ、競技水準の高いものを選抜して行なう全国競技会については、協議会で適正と認めたものは、実施できる」となっています。サッカーの全国中学大会を開こうという根拠も、ここにあるわけです。
 「学校教育活動の外で行なう」わけですから、これは「中学校」の選手権大会ではありません。13歳〜15歳の少年たちの大会ですが、この年代は、義務教育ですから、全員が「中学生」です。
  したがって「全国中学生大会」といっても、さしつかえないと思います。
  ぼくが調べたところ、中学生の全国大会を開こうというスポーツ団体は別表の通りです。名称はまちまちですが、この中には、水泳や庭球のように、従来からなんらかの形で中学生の全国大会を開いているところもあります。
  また、バスケットボールやバドミントンも、おそらく、昭和46年度からは、全国大会を開くことになるだろうと思います。

中学校の全国大会を計画している競技 (予定)
スキー 全国中学生競技会 (2月・新潟)
サッカー 全国中学生大会 (7月・埼玉)
軟式庭球 全国少年少女大会 (8月・東京)
庭球 全日本ボーイズ・ガールズ選手権 (8月・東京)
卓球 全国中学選手権 (8月・東京)
体操 全国ジュニア選手権 (8月・東京)
バレー 全日本ジュニア選手権 (8月・東京)
水泳 全国中学生選抜大会 (8月・東京)
 〃 日本選手権年令別大会 (8月・東京)
陸上 全日本ジュニア選手権 (11月 ・東京)


どこが違うか

 それでは「社会体育と学校体育は、どう違うのか、中学校でクラブ活動としてやっているサッカー部は、どっちなんだ」と、疑問に思う人が出てくると思います。
  文部省では「どこまでが学校教育の範囲かということは、結局は校長先生が判断することになるだろう」といっていますが、方向としては「サッカー部の活動は、学校教育活動外、つまり社会体育の範囲に移行していくものと考えられる」と、みています。簡単にいえば、「中学のサッカー部の生徒が、全国大会に出ても、いいんだ」という結論になると思います。
  ただ、学校教育の範囲外で、中学のサッカー部が活動する場合に次のような問題点があります。
 (1)学校の先生がチームの指導をしても、超過勤務手当ての対象にはならない。まったく個人的なサービスになる。
 (2)ケガをした生徒が出ても、学校安全会の保険の対象にならない。
 (3)練習や試合に参加するための費用は、原則として自己負担となる。
 といっても、部員はまだ未成年だから、結局、親が全額を出すことになる。
 ― などです。
 (1)については、普通の会社に勤めているOBが指導するのと同じように、先生たちに協力してもらうほかはありません。ただし、先生方は、児童生徒の取り扱いには、専門的な知識と経験を持っておられるのですから、サッカー協会は、その専門家としての知識と経験にふさわしい敬意を払い、処遇をして、ともにサッカーの普及のために協力する体制を作らなければ、なりません。
 (2)と(3)については、父兄や一般の人の理解と協力が、ぜひ必要です。PTAを中心とした学校区の体育会、スポーツ少年団、友の会などに協力してもらう余地が、十分あると思います。
 

リーグ戦を盛んに

 このほか、サッカーでは、現在行なわれている全国サッカー・スポーツ少年団大会との関係を、どうするかという問題もあります。サッカー協会の一部では、少年団大会は、これまでの “単一チームによる参加” という形をやめて、“各チームのリーダーを集めた講習会” つまり選択方式にすることを考えているようです。
  中学生の全国大会について、ぼくは、いろいろな人の意見を聞きました。岡野俊一郎コーチは、こういいました。
「投書を読むと、“小学校でサッカーをやりはじめたけれど中学に入ったらサッカー部がない” という相談が多いんだ。だから、中学にサッカー部を作らせるような方向に、盛り上げていかなければならないと思う」
  事実、その通りだと思います。
  ただし、中学生の全国大会を開くことができるようになったことをたちまち、むかしの「中学生大会の復活」だと “うしろ向き” の姿勢で受け取るべきではありません。
  文部省も体協もそうですが、社会全体が、スポーツ活動を、学校体育の場から、社会体育の場に移していこうとする大きな流れの中に置かれていることを、見誤ってはなりません。
  ですから、一例をあげれば、単一の中学校の生徒で構成されているチームも、二つ以上の中学校の生徒で構成されているチームも、(二重登録でない限り)、同じように大会に参加させるようにするべきです。
  もうひとつ。全国大会を開いても、これに参加できる選手の数は、いまどんどん広がりつつある少年サッカーの総人口からみれば、しょせんは、ひと握りでしかありません。
  社会体育は、すべての人が、自分たちの住んでいる地域の中で、日常的にスポーツ活動をしていかなければ、おいそれとは育ちません。
  全国大会の予選のために、負ければ一試合で終わりのトーナメントを、一発だけ打ち上げるのではなく、継続的な中学校サッカーのリーグ戦を、全国津々浦々に広げたい。そして地域的な格差をなくして、全国的なレベルアップをはかりたい。
  それがそのまま「中学生のサッカーを盛んにする」ことだと思います。

 

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