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ワールド・カップ  予選リーグ総決算  (2/3)
(サッカーマガジン1966年9月号) 

 

7月13日(水)
▽A組リーグ(ウェンブレー)
メキシコ 1(0−0 1−1)1 フランス
▽ B組リーグ(バーミンガム)
アルゼンチン 2(0−0 2−1)1 スペイン
▽ C組リーグ(マンチェスター)
ポルトガル 3(1−0 2−1)1 ハンガリー
▽ D組リーグ
イタリア 2(1−0 1−0)0 チリ

 この日で16チームが、ひと通り出そろった。優勝候補とされていたチームも絶対でなく、北朝鮮やメキシコのように弱いとみられていたチームも侮りがたい。とくにメキシコが、フランスと引き分けたのは大きな驚きだった。
 この試合は前半が単調だったのにくらべ、後半は鋭く、盛り上がった。最初に得点したのはメキシコで、後半3分すばらしいスピードの展開から、ボルヤがゴール・ラインぎりぎりの角度のないところで、相手のキーパーの動きをかわして決めた。フランスは17分にアウセルのみごとなドリブル・シュートで同点としたが、スリルあふれる好試合となったのは、メキシコの健闘のおかげである。
 この日はまた、ヨーロッパ勢のスター総登場の日だった。ヨーロッパ最優秀選手のオイセビオが負傷しながらも、ポルトガルのために活躍し、東京オリンピックでハンガリーを優勝させた新進のベネが、世界の花形にのしあがる徴候をみせた。
 ポルトガル―ハンガリーは、決め手を欠いてチャンスを失う場面が多く、この試合からは、この両チームがブラジルの強敵になろうとは、想像できなかった。オイセビオは前半終りごろ左目の上に裂傷を負い、ほうたいをぐるぐる巻きにして試合を続けた。ポルトガルの3点はいずれもヘディングによるもので、開始後1分にCKから、後半10分にはオイセビオからのボールを、ともにオーグストが決め、終了1分前にトレスがCKから3点目を追加した。ハンガリーは数多くのチャンスをミスし、後半14分にベネが1点をあげただけ。
 アルゼンチンは、前半固い守備をしいてスペインの出方をうかがい、後半攻勢に転じて、堅実な作戦を成功させた。アルゼンチンのスター、アルチームが後半20分に1点目をあげ、31分にスペインが同点に追いつくと、すぐ2分後にアルチームが勝ち越し点を加えた。デルソルをはじめとするスペインのスターたちは、固くマークされて生彩がなかった。
 チリを完封したイタリアの勝利は“素敵な雪辱”だった。イタリアは4年前チリの大会でチリに苦杯を喫しているからである。イタリアは開始後10分サンドロ・マッツォーラが先制点をあげあとはラクに試合を進め、終了2分前にバリソンがダメ押しした。

7月15日(金)
▽ A組リーグ(ホワイトシチー)
ウルグァイ 2(2−1 0−0)1 フランス
▽ B組リーグ(シェフィールド)
スペイン 2(0−1 2−0)1 スイス
▽ C組リーグ(リバプール)
ハンガリー 3(1−1 2−0)1 ブラジル
▽ D組リーグ(ミドルスボロ)
チリ 1(1−0 0−1)1 北朝鮮

 ブラジルが敗れた。ワールド・カップでは12年ぶりのことである。この大番狂わせの立役者のひとりは、東京オリンピックの得点王ベネだった。
 ベネは試合開始直後にハンガリーの先制点をあげた。これはブラジルが過去に示した数々のすばらしいプレーにまさるとも劣らないもので、この1点によってベネは世界のスターとしての地位を確保したといっていいだろう。
 ブラジルも、はじめのうちはチャンピオンらしい貫禄をみせた試合ぶりだった。花形ペレの休場に代わって出場したトスタオが14分に同点とし、前半はまだブラジルの勝利が信じられていた。
 しかし後半になると、ブラジルはいつものようなプレーを忘れていた。ハンガリーが押しまくり、ブラジルのチーム・ワークは乱れた。
 ハンガリーの勝ち越し点は後半19分、切り札のファルカスがあげた。ベネがドリブルで持ち込んでクロス・パスをあげ、ファルカスはこれを直接浮きダマのまま叩き込んだ。この日再三の危機を切り抜けた名ゴール・キーパーのギルマーにも、防ぎようのない強烈なやつだった。ハンガリーは30分にもベネに対する反則で得たPKを決めて勝利を確実なものにした。
 雨ですべる芝生がブラジルの足技を殺したせいもあるが、ブラジルの敗因は何だったか。フェオラ・コーチはいう。「ペレを休ませたうえ、20分にアルシンドが負傷して攻撃ラインが混乱した。われわれが不調だったのにくらべ、ハンガリーは文句なくよかった」。
 ペレの負傷は軽いものだが、フェオラ・コーチは、次のポルトガルとの決戦に必勝を期して休ませたのである。三すくみになっても総得点と総失点の比で、上位2チームに入れるという計算なのだが、果たしてこの作戦は正しかったかどうか。
 北朝鮮の調子は、しり上がりである。この日前回3位のチリと引分けて初の勝ち点1をあげて、観衆を驚かせた。チリは前半27分PKで先行したが、北朝鮮は試合終了2分前、朴承進が同点とした。朴のシュートはペナルティ・エリアの中まで持ち込み、密集の間を抜くみごとなものだった。北朝鮮はノン・ストップ・パスによる攻撃を展開、ゴール前の決め手にもう一歩の確実さがあれば勝っていただろう。
 ウルグァイは順当にフランスを降した。フランスはPKで先行したが、ウルグァイは27分と32分にあっさり引っくり返した。
 スペインの勝利も順当だが、点差は意外に開かなかった。雨でチーム・ワークが乱れ、スイスの健闘に苦しめられながら、個人技で逆転勝ちした。

7月16日(土)
▽ A組リーグ(ウェンブレー)
イングランド 2(1−0 1−0)0 メキシコ
▽ B組リーグ(バーミンガム)
西ドイツ 0(0−0 0−0)0 アルゼンチン
▽ C組リーグ(マンチェスター)
ポルトガル 3(2−0 1−0)0 ブルガリア
▽ D組リーグ(サンダーランド)
ソ連 1(0−0 1−0)0 イタリア

 全チーム2試合ずつを終え、ソ連がいち早く準々決勝進出を確定した。イングランドもメキシコを破り、ベスト・エイトに残ることは確実である。
 イングランドの先取点は、ボビー・チャールトンがあげた。前半37分、ハーフ・ライン付近からドリブルで持ち込み、ゴールまで約2.5メートルの地点で、相手のタックルの寸前に、みごとな中距離シュートを決めた。2点目はCFのロジャー・ハント。これもボビー・チャールトンが殊勲者で、彼からのパスをジミー・グレーブスがシュート。相手のキーパーがはじいたのを叩きこんだもの。
 イングランドの勝利は危な気はなかったが、「あと4点はとれたはずだ」と不満を述べたものもいる。メキシコの厚い守備を攻め崩しかねたことが多く、比較的弱い相手なのに、絶え間なく攻めつけられなかった点が、今後に不安を残している。
 アルゼンチン―西ドイツは、この大会でもっとも荒っぽい試合だった。アルゼンチンが厚く守備の壁を築き、ドイツがくり返し攻めたが得点にならなかった。後半23分アルゼンチンのLHアルブレヒトが、今大会の退場第一号となった。(アルブレヒトは次の試合出場停止となる)。乱暴な反則とオブストラクションの多い、ひどい試合だった。
 ポルトガルもブルガリアから2勝目をあげ、上位進出の色が濃くなった。1点目はブルガリアの守備陣の自殺点で、シモスの左からのシュートを、ブルガリアのFBがヘディングしそこなって自分のゴールへ入れた。2点目は37分にオイセビオ、3点目は後半38分にトレス。あまりおもしろくない試合だったが、オイセビオの動きだけが光っていた。
 ソ連―イタリアは好カードだったが、ソ連が後半11分、キスレンコの貴重な得点で勝利を握った。キスレンコはイタリアの守備陣にせり勝って、ゴール前のマロフィエフにパスを送り、マロフィエフがかかとですばやくバック・パスしたのをけり込んだ。ソ連は、イタリアのCFサンドロ・マッツオラを“鉄の男”フルチラワががっちりマーク、守備陣のできがよかった。マロゾフ・コーチの作戦指導の成功であるとみられる。

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