ワールド・カップ予想
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(サッカーマガジン1966年6月号・創刊号)
■ イングランドへの期待
第二に、地元イングランドの、この大会にかける期待はどうか。
ことしのワールド・カップは、イングランドのサッカー協会(FA)の創立100年記念事業の1つとして誘致したものである。
いまは”世界のスポーツ”になったサッカーの、発生の国としての誇りが、この大会にかけられている。
これまで、ワールド・カップでのイングランドの成績は、サッカーの母国にしては、芳ばしいものではない。
第4回大会では、サッカーに関しては未開発国のアメリカに敗れて、大きなショックを受けている。
第5回大会では、準々決勝でウルグァイに負け、第6回大会はソ連に再試合のすえ敗れ、準々決勝にも進出できず、前回の第7回は準々決勝でブラジルに敗れた。
この不成績は、ヨーロッパ大陸の各国が、南アメリカ風の技巧のサッカーも取り入れ、個人技とチーム・プレーをミックスした戦術で進歩していたのに対し、古いスタイルのサッカーを続けていたためだといわれた。
このため、前回の大会のあと、17年間イングランドを指導していたウインターボトム・コーチが辞任し、ラムゼー・コーチが国民の期待をになって登場した。
ラムゼー・コーチは、ヨーロッパ風のスタイルを取り入れて、最近の国際試合で好成績を残している。
ラムゼー改革により、組合せにも恵まれたことであり、イングランドがブラジルと決勝を争うものと期待されている。
■ 世界をリードするサッカーは……
第三に、ヨーロッパ風と南米風のサッカーのどちらかが、将来の世界をリードするようになるのか。それを決めるのが、ことしのワールド・カップなのだ。
南米のサッカーは、個人の曲芸のような足わざが、むかしからの特徴だった。ブラジルは58年の大会のとき、この華麗な足わざを、糸であやつるようなチーム・ワークに結びつけた4・2・4システムを完成した。
ヨーロッパのスタイルは、正確なショート・パスが特徴である。そしてヨーロッパでも4・2・4の布陣が採用されているが、攻撃の足わざの進歩に対抗して、深く守備を固める傾向が強い。
「ヨーロッパの連中の試合ときたら、0−0の引分けばかりじゃないか。ブラジルの、点をとるサッカーのおもしろさをみせてやりたいものだ」
ブラジルのフェオラ・コーチのいい分である。
第3組での、ハンガリー、ポルトガル、ブルガリアとの対戦が、もっとも激戦であると同時に、南米対欧州の対決を象徴するものとして、人気を集めることになるだろう。
■ サッカー試合の賭け
イングランドには公認の賭け屋(ブッキー)がいて、サッカー試合に対する賭けが、国民の大きな楽しみになっている。
ワールド・カップに対する賭けも、話題の1つなので、最後に各チームの、優勝に対する賭け率を紹介しよう。
ブッキーによる賭けは、日本ではなじみがないので、簡単にやり方を紹介すると、あなたが、ブラジルが優勝すると思った場合、ブッキーに賭け率を聞く。
ブラジル優勝の賭け率が9対4のときは、あなたがブッキーに400円を支払えば、ブラジルが優勝したとき、900円もどってくる仕組みである。
賭け率は、株の相場のようなもので、大会が近づくにつれて、変動する。ペレが負傷した、というような情報が入れば、ブラジルの率がよくなるわけだ。
下記のは、2月13日当時のもの。
北朝鮮は1月、組み合わせ発表のころは、500対1---100円に対し5万円の配当だった。これはイギリスと北朝鮮に国交がなく、チームが参加できないというようなウワサがあったためだ。
国際サッカー連盟会長のサー・スタンレー・ラウスが、
「北朝鮮は、バカにできない力がある」
と談話を出すようなこともあって、最近では150対1くらいまで下っているという。
北朝鮮は昨年夏平壌のアジア新興国大会(共産国系の大会)でも優勝しており、アジア最強の実力は確実。
同じアジアの国民として、ただ一つアジアから出ている、北朝鮮がどのていど戦えるかも、注目したいところである。 (了)
優勝に対する賭け率(2月13日)
ブラジル 9対4
イングランド 5対1
アルゼンチン 7対1
イタリア8対1
ソ連 9対1
ポルトガル 14対1
ハンガリー 22対1
フランス 25対1
スペイン 25対1
西ドイツ 25対1
チリ 40対1
ウルグアイ 40対1
ブルガリア 66対1
メキシコ 100対1
スイス 100対1
北朝鮮150対1
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