【ブラジルサッカー通信<3>】
サンパウロ・サッカー博物館を見る
<文・写真 手島直幸(ブラジルに出張中)>
◆高級住宅地のなかに
5月9日(土)に、サンパウロのサッカー博物館に行った。
銀行や大会社の建物が並ぶパウリスタ通りからわきの坂道を下りていくと盆地の底にあたるところにパカエンブー・スタジアムがある。周りは高級住宅地である。雰囲気はハリウッド・ビバリーヒルズであろうか。サッカーくじを当てたら、ここの住宅地を購入してみたいものだと夢見る。市の中心近くにスタジアムがあり、そのなか
にサッカー・ミュージアムがある。
スタジアムの正面は壮大な柱の外壁だ。
2006年W杯のとき訪れたベルリンのオリンピックスタジアムに似ている。
建設されたのが1940年という表示をみたとき、ドイツとつながりの深かったと言われる当時のブラジルの文化的風景を想像した。
◆サンパウロの新名所
博物館の切符売り場と入口は正面に向かって左側にあり、右側に試合の前売り券売り場がある。次の日にコリンチャンス対インターナショナルの試合があるので、20分並んで買った。
サッカー博物館は、2008年10月1日にオープンした。わたしのまわりのブラジル人では行ったことのある人は少ない。ブラジルの人にも目新しい新名所なのだろう。
土曜朝11時。博物館の切符売り場前にはディズニーランドのように長蛇の列。
ここでも20分並んで入場券6R$(300円)を買う。
◆見やすい工夫
博物館はスタジアムのスタンド下を利用している。
内部は3階構造で、エスカレータでスムーズに人は流れる。
入口のさきのホールは壁一面さまざまなポスターがある。
エスカレータに乗って、あれはペレだ、あれはガリンシャだと見ているうちに2階に着く。
目の前のスクリーンで等身大のペレが迎えてくれる。
一瞬立ち止まる人がいて、エスカレータを降りるところが混雑する。
◆映像で名場面を追体験
最新の映像技術を使っている、10人くらいで見ることができるビデオブースが10ほどある。メニューから見たい映像を選ぶと出てくる(オンデマンドというのか)。
たとえば1970年メキシコ・ワールドカップの映像では、ペレのパスを受けたカルロス・アルベルトの強烈なシュート、リベリーノの左足のバナナシュートなど美しいゴールが編集されている。
1994年アメリカ大会決勝ではロベルト・バッジオがPKをはずすシーンも繰り返し見た。
メニューは30以上あったので全部見ようと思い、他の人に遠慮しつつブースを移りながら、ここで1時間ほど堪能した。横でラジオ実況中継の再生も聞ける。
◆徹底した映像技術利用
最初のビデオルームで満腹感を覚えたが、そのあとの展示でも映像技術がふんだんに取り入れられていた。
三方の球形の壁にスタジアムの応援席が映し出され、サポーターの熱烈絶叫が体に響く。ゴールキーパーと名前のついたネットで囲まれた空間があり、その中に入ると、ゴールキーパーの名場面、珍場面がスクリーンに流れる。キーパー志望の子供は必見だ。
ワールドカップを各時代別にとりあげ、その時代の事件、風俗を映すテレビ画面が円柱を囲む。ここでは見る時代を絞ったが、はや2時間経過。わきのベンチで休憩。
◆天才ペレのゴールシーン
これだけの映像記録をよく集めたものだと思う。
その思いを強くしたのは、1000ゴール以上の記録を持つペレの個人特設コーナーであった。
ペレの名シュート・シーンを連続してみていると、ペレのすごさが見えてくる。
自然に見えるスムーズな動き、周りの人と格段に違うスピード、重心が低く、次の次を読んでいる。自分のサッカーに生かせないかと考えたが、すぐにこれは真似できないと思った。大天才であり、そのゴールは芸術品だ。
ここで30分以上立ち続けてみた。
1試合走り回りタイムアップを迎えた時のような疲労感があった。
◆ロナウジーニョの3D劇場
家族連れが多い。子供たちがサッカーの楽しさを体験できる場所でもある。
天井から床に映写されたバーチャル・ピッチで子供たちが映像のボールを追っていた。
その横で3Dグラスをつけてロナウジーニョことホナウドガウショ(地元の人の発音ではそう聞こえる)のリフティング技をみた。
テレビコマーシャルで見慣れていたせいか、やや物足りない。目が肥えてきたか。
PKコーナーもある。
バーチャルのキーパーが守り、ゴールが決まると「ゴーーール!」と表示が出る。
30人ほどの列ができていたのでここはパスした。
◆博物館は映像体験型がベスト
歴史を残し、伝えていくことがサッカー博物館の使命であり、ここは成功している。
映像技術を駆使して、ブラジル・サッカーを追体験できるこの博物館にはもう一度行って見たい。 |