本誌には毎日たくさんの読者から、ご意見や質問が寄せられてくる。それらの読者のかわり、おなじみの牛木さんをわずらわせて日本蹴球協会の竹腰理事長にきいてみた。
語る人/日本蹴球協会理事長 竹腰重丸氏
聞く人/牛木素吉郎氏
協会は自分たちのもの
世界のサッカーは、プロもアマチュアもみなFIFA (国際サッカー連盟) の仲間にはいって、おたがいに試合をして、友情を深め、技術を伸ばすことになっている。
日本では、日本蹴球協会がFIFAに加盟している。日本のサッカー・チームは、みな協会にはいって、仲間になってサッカーを楽しみ、ワザをきそい合うのが、ほんとうの姿だ。協会は全国のサッカー・チーム、そしてチームに属しているサッカー・マンが集まって作っているものなのだ。
だから、日本のサッカーが思うように発展しないからといって、外から協会の悪口をいっているのは間違っている。協会は自分たちのものなのだから、意見があれば、どんどん出して協会をあずかっている役員の人たちに、やってもらうようにしなければウソだ。そして協会のやろうとしている仕事に (それがよいことであれば) みんなが力を出し合って協力しなければならない。
協会の役員のほうも、自分たちのやろうとしていることを、積極的に国民に知らせ、協力してくれるように、たのまなければならない。
というわけで、サッカーマガジンの関谷編集長といっしょに、日本蹴球協会の責任者、竹腰理事長にインタビューすることになったので、ぼくは大いに張り切った。
実をいうと、竹腰理事長 (みんなノコさんと呼んでいる) は、ぼくの学校の大先輩で、ぼくが学生のとき、ヨチヨチとボールをけっていたのを知られているから、ふだんは頭があがらない。
しかし、きょうはサッカーマガジン数十万の読者を代表して質問するので、胸を張って、果敢なタックルを試みた。 (牛木素吉郎)
アマの模範になるプロ
―― 4月からサッカー界も新しい年度にはいりますから、1969年度の協会の抱負をきこうというわけですけれども、国際試合のスケジュール事業計画はすでに発表されていますし、サッカーマガジンでも紹介されましたから、きょうはすこし話を広げて、5年先、10年先のビジョンを語っていただきたいと思います。
竹腰 わたしはホラが吹けないほうだからね。注文通りの話になるかどうか……。
―― ホラは困りますけれども、ホラに近いようなでっかい夢は持ちたいものです。5年後、10年後ということになると、日本にもプロサッカーができているのではないか。ところが日本蹴球協会は、プロ問題に対して、少し消極的すぎるのではないかという意見がありますが……。
竹腰 そんなことはない。協会内にも、積極論も消極論もありますよ。ご承知のように、ヨーロッパや南米のサッカーの盛んな国には、どの国にもたいていプロの選手がいます。だから日本もサッカーが盛んになるにつれて、プロが出てくるのは自然の成り行きだという意見は、当然でしょうね。
10年後にプロが出てきているかどうかは、いまのところ分からない。徴妙なところでしょう。ただ、大切なことは、どのような形のプロが出てくるかについて、協会は、そのタイミングとともに、プロのあり方を十分に考え、規制しなければならないということです。
―― だいぶむつかしい話になってきました。具体的には、どういうことでしょうか。
竹腰 第一にサッカーのプロは、単なる見せ物とは違うということです。もちろん試合をして、それを見てもらうのが、プロスポーツの仕事ですけれども、おもしろくするために八百長をしたり、珍奇なルールを作ったり、ふざけたプレーや、あるいはわざと血なまぐさい試合をしてみせて、お客さんを喜ばせたりするようなことは、サッカーではさせません。いまアマチュアとしてやっているサッカーと同じルールでさらに高度な技術と、すぐれた試合ぶりを見せ、人間の心をゆさぶる興奮とスリルを味わわせ、アマチュア選手の模範になるようなものではなくてはならない。
―― サッカーの場合は、プロができても、アマチュアと同じように、日本蹴球協会に加盟するわけですね。
竹腰 その通りです。協会とは別にプロサッカーを作っても、外国へ行って試合をすることができません。FIFA (国際サッカー連盟) の規定では、選手をアマチュア、ノン・アマチュア、プロフェッショナルの3種類に分けていますが、3種類の選手を全部、協会が統制するわけです。これは、プロとアマが別々になっている日本の野球や、ボクシングと違うところだし、プロを認めない陸上などとも、まったく違う点です。
協会がプロを統制する
―― プロはきたないなんて考えは、ぜんぜんない……。
竹腰 そんなことは絶対にない。プロを協会で統制して、アマの模範になるような、立派なものにしようという考えなんだから ――。スポーツの世界でプロとアマの問題は、むかしからあって、陸上競技では、プロは自分たちの仲間から締め出して、アマだけの世界を守ろうとしたし、サッカーはプロも仲間に入れて統制することによって、自分たちのスポーツを正しく発展させてきたわけです。
―― ふたつの別々のやり方ということで、どちらが正しく、どちらが間違っているというわけではないのですね。
竹腰 そうです。ただし現在の日本ではサッカーも、アマチュアだけで、プロ選手の登録はないし、認めていませんよ。蹴球協会は、日本体育協会に加盟していて、国際的にはFIFAの規定に従う一方、国内的には体協のアマチュア規定を尊重している。いまの体協アマチュア規定は相当にきびしいものです。
サッカーとしては、将来プロ選手が日本に生まれてきたときには、これを加盟させて、協会が統制しなくてはならないと覚悟を決めているけれども、現行の体協アマ規定を尊重する以上、安易な気持ちで、いますぐに日本にプロ・サッカーを作れということはできないでしょう。
―― しかし体協のアマチュア規定は、根本的に改正されるのでしょう。竹腰理事長も体協のアマチュア委員として、関係しておられるわけですが……。
竹腰 さきほどいったように、プロとアマチュアの関係に対する考え方は、スポーツによって非常に違うので、これを体協の一般的な規定でしばると、矛盾だらけになってくる。そこで、体協の規定は、体協が主催する国民体育大会などの参加者の資格を決めるものにしようということで、改正を検討しているわけです、ただし、そうなった場合でも、サッカーのアマチュア選手は、FIFAのアマチュア規定を守らなければならないし、またほとんど全部のみなさんは、国体やその予選の県体や、高校総合体育大会に出場されるわけだから、体協の規定も守らなければならない。そうむちゃくちゃに、試合に出て、何万円もらってもいい、というようなことにはなりません。
ただ将来プロ選手が出てきたときに、これを管理統制するのは、日本蹴球協会のFIFAに対する義務だから、体協の規定でそれができないようでは困る。そういう矛盾はなくしていかなければならない。しかし、規定でそうなったにしても、日本でいつからプロ選手を認めるかということは、蹴球協会が独自に判断して、慎重を期さなければならないと思っています。
目標をどこにおくか
―― 話は変りますが、ことしはメキシコの銅メダルを踏み台に、次の目標への第一歩を踏み出す年だと思うんです。ところが、日本のサッカーの次の目標が、来年のワールドカップなのか、次のミュンヘン・オリンピックなのか、明確にされていないのではないでしょうか。
竹腰 日本代表チームの強化目標ということですね。ただひとつだけ、いえということであれば、3年後のミュンヘン・オリンピックであると申しあげたい。しかし、だからといって、ことし一挙に代表選手を若手ばかりに切替えて、これから3年間鍛えていくつもりかというと、それは違う。そのときの最強メンバーを編成して鍛えながら、ミュンヘンヘ持っていく。その途中にあるワールドカップにも、その時点での最強の編成でぶつかる。9月にソウルでワールドカップの予選があって、これに勝ったら次にイスラエルの組との試合がある。それに勝って、はじめて来年6月、メキシコのワールドカップに行ける。ワールドカップの本番は、プロの出る大会で、ここで勝つのはオリンピックより、はるかに困難だけれども、最善をつくしてがんばる、という気持です。
―― ミュンヘンが当面の最高目標であるということになれば、ことしはワールドカップの予選はありますけれども、昨年のメキシコ・オリンピック、一昨年のメキシコ大会アジア予選のように、せっぱつまったもの、どんな無理でもしなければならないものではないわけですね。最近では珍しく余裕の持てる年だともいえますね。
竹腰 うーむ、まあ、そういっても、いいでしょう。
―― いままでサッカーマガジンの誌上にも、いろいろな意見がのったわけです。たとえばここ数年、マレーシアのムルデカ大会にBチーム、つまり2軍を送って、向こうの感情を害したりしている。日本はアジアをもっとたいせつにすべきだし、またムルデカで一度ぐらい優勝してみろ、ということもある。ことしこそ、余裕があるのだから、こういう懸案を解決したらどうでしょうか。
竹腰 ムルデカ大会はことしは1軍を送ります。これは義理を果たすということばかりではないが、日本のサッカーがこれまでになったのは、十数年来、マレーシアのラーマン首相をはじめとするアジアの国の協カのおかげで、これに報いるのは当然だし、またアジアとともに伸びていかなければ、日本のサッカーも行き詰りがくるだろうと思います。いろいろな意味でムルデカ大会には、銅メダルをとった日本の代表チームを参加させることにしました。
底辺拡大のために
―― いいですねえ。それにもうひとつ加えさせてもらえば、これまで日本代表のチームは、夏休みに、日本にいたことがない。せっかく少年たちが、お父さんやお兄さんに連れられてサッカーを見にいくことができるときに、日本ではいいサッカーの試合がない。これは非常に残念だと思うのです。夏休みのはじめか終りに、国立競技場でナイターをやれば、少年たちにとって、どれほどためになるか分からない。ところが、先日発表になったスケジュールを見ると、日本代表チームは、8月のムルデカ大会の前に、7月はアイルランドに遠征することになっている。ことしも貴重な夏休みに、少年たちにチャンスを与えられないのは、とても残念です。協会は代表チームの強化だけでなく、底辺のそういう方面にも、総合的に考えをめぐらせてほしいのです。
竹腰 アイルランド遠征は、まだ交渉中で、決まったわけではありません。向こうから誘いがあり、ワールドカップ予選の準備にもなるというので検討しているわけです。しかし外国から強いチームがきて日本でやるのでも強化のためになるし、夏休みの少年たちに良い刺激を与えることは確かですから、考慮してみましょう。ただ、たまたま、その時期に日本に来てくれるチームがあるかどうかは、非常にむつかしい。しかし、それも検討してみましょう。
底辺拡大のことは、決して忘れているわけではありません。ことに少年たちのサッカーを、正しく育て、普及していくことはコーチ制度の確立とともに、協会の最重点目標です。このふたつのための企画も、ことしの協会事業計画に織り込まれています。
―― それから、サッカー場の建設ですね。東京の赤羽にできるという国立サッカー場は、1万5千人では小さすぎるのではないかという声がありますが……。
竹腰 国立サッカー場の正式決定は5月になりそうです。われわれは4万人を主張したのですけれども、国有地を国が出資して、サッカー場を作るので、あまり主張に固執すると、サッカー場そのものができなくなるおそれがあった。多くの観衆を入れる試合は、これまで通り、千駄ヶ谷の国立競技場でやればよいという意見もあるし、また赤羽のものも、将来拡張の余地がないわけではない。とにかくサッカー場がないんだから、ひとつでも実現させたいということですね。
それから、今後は市民のためのサッカー場をたくさん作ること、あるいは地方都市の陸上競技場をサッカーでも使えるようにすることを、考えていかなければなりません。
―― ぜひ、がんばって<ださい。協会は日本代表チームの強化にばかり、お金や頭を使って底辺の拡充やグラウンド問題などは口先きばかりだという声も強いのです。それから最初のプロの問題にもどりますけれども、ミュンヘン・オリンピックが当面の目標だということであれば、少なくとも今後3年以内に、日本でプロ選手を認めることは……。
竹腰 あり得ないということになりますね。 |