(サッカーマガジン1971年1月号
牛木記者のフリーキック )
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天皇杯の方式
天皇杯・全日本選手権大会の時期がせまってくるたびに、日本蹴球協会は、どうしてこうガンコなんだろうかと思う。いまの天皇杯の大会形式は間違っていると、なんどもなんどもいわれてきたのに、少しも耳をかそうとしないで、ずるずると次のシーズンになる。
現在のやり方では、日本リーグの上位4チームと全国大学選手権の上位4チームが、準々決勝、準決勝、決勝を争うことになっている。これには次のような間違った点がある。
(1)全国の大部分のチームには、日本蹴球協会の最高の選手権に出る道が、開かれていない。全日本選手権の最末端に出場する権利を与えられないで、高い登録料を払って協会に加盟する義務だけを負わされているのは、どういうわけだろうか。
(2)日本リーグや大学選手権が、天皇杯の予選になり下がっている。全国リーグは、独立した最高のタイトルでなければならない。
(3)学生と社会人の特殊な対抗戦の形になっていて、下部のチームが上部のチームに挑戦するという “カップ形式”
の趣旨が無視されている。トヨタ自工や甲府クラブが、三菱や日立にぶつかって、あわよくば、これを倒すのがカップのおもしろさのはずだ。
それじゃ、どうすればいいか。それは世界中、どこの国でも行なわれている “リーグとカップ” の形式に学べばいい。こんなことは全国のファンは、みな知っているが、協会の一部の幹部だけが「日本の特殊事情」と称して、古い体制にしがみついている。
■ 長沼前監督の復帰?
アジア大会の前の修善寺の合宿に、岡野監督 ― 八重樫コーチだけでなく、長沼健さんと平木隆三・協会コーチもトレーニング・シャツを着て出かけた。ユ一ルゴルデンとの試合でも、岡野
― 八重樫と並んで、長沼 ― 平木がベンチに坐っていた。
これを見て、ひねくれたサッカー記者たちの話。
「日本のコーチは幸せだよな。これがブラジルあたりだったら、なんて書かれるか分からない」
「岡野 ― 八重樫の新体制は早くも破産して、長沼前監督を事実上、復帰させるほかはなくたった。その裏には……てなぐあいで、センセーショナルに書き立てることになる」
「岡野監督に疲労の色が濃いのは事実だぜ。どうも顔色が最近冴えないと思うな。テレビの解説もやり、新聞・雑誌にも執筆し、協会では、渉外事務と報道関係を担当する。日本リーグの常任運営委員でもある。これじゃ、からだがもたないよ」
「ほかにタレントがいないのかね。タレントを育てるのも協会の仕事だけどな。ナショナル・チームのコーチは、やはり強いチームを作ることに専念してもらいたいな」
長沼 ― 平木は、バンコクにもついて行くことになった。「次の対戦相手を偵察したり、若手選手がチームにとけ込めるように側面からお手伝いするのが、われわれの仕事ですよ。チームの統率は、あくまで岡野
― 八重樫です」
ケンさんは、ぴしゃりと、われわれの憶測を封じた。
ケンさんのいう通り首脳陣が一致協力してバンコクで好成績をあげることを祈りたい。
しかし、一方では、日本のサッカー記者は、きれいごとを書き過ぎるのではないか、あくどく、センセーショナルに、あばき立てるほうが、時として間違ってはいても、真実をつき、進歩に役立つのではないか、と反省することがある。
■ 小崎選手の移籍
日本リーグの名相銀に小崎実という選手が追加登録されて、70年度最終節の1試合だけに出た。おそらくトヨタ自工との入替戦にも使うだろうと思う。
小崎選手は、鹿児島クラブでやっていたのだが、6月に甲府で行なわれた全日本ジュニア対抗戦に九州から推薦され、社会人ジュニア選抜の一員として出場した。
そのときに名相銀の横森監督が目をつけたと、当時新聞にも出ていた。
地方に埋もれているタレントを発掘するのが、ジュニア対抗戦の目的の一つだったのだから、小崎選手が陽の当たる場所に出たのは一つの収獲だったといえる。
また鹿児島のサッカー界が大乗的見地から、小崎君を手放したのだとすれば、これまた立派なことである。
しかし、日本リーグがシーズン終了の土たん場になって追加登録を認め、その結果1試合しかリーグではプレーしなかった者が、入替戦の戦力になるというのはどうか。
こういうことを防ぐために、日本リーグには前期終了後の追加登録は、原則として認めない規則がある。
しかし小崎選手の場合は、書類不備などのため、正式承認がおくれたもので、例外だというつもりらしい。
こういうのをへ理屈という。規則だけでなく、規則を作った精神をも踏みにじっている。
■ 観客とテレビをだます
ユールゴルデンとの第1戦に、日本チームは若手ばかりの “2軍”
チームを出した。ラインアップが発表されて、あっと驚いたのは冷雨の中を、わざわざ見に来ていた熱心な観客ばかりではない。4試合のうち、この1試合だけを無理して中継することにしていたテレビ局の連中は、スポンサーの顔と視聴率の数字がちらついて、頭をかかえてしまったことだろう。
小城も、宮本輝紀も、釜本も、杉山も、ついに出ずじまいだった。バンコクのアジア大会への代表選考のため若手だけでやってプレーぶりを見たいということだったが、はっきりいわせてもらえば、これはサギ同然である。
他の試合と同じ1000円、500円、300円の入場券を、なにも知らないで買わされたファンが気の毒だというだけではすまない。
シーズン・オフのデー・ゲームとしては破格の権利金 (100万円といわれている) をとっておきながら、テレビの事情を踏みつけにしたというだけでもない。
こういったことももちろん許しがたいことだが「日本代表」の名を、安直にかぶせて試合をし、「あらかじめ発表した28人の中から選んだメンバーだからいいんじゃないか」という考え方がチラチラするのも問題だ。日本代表というからには、その時点での日本の最強の顔ぶれだろうと世間が考えるのは当然である。はじめから「日本B」と予告しておくべきだったと思う。
アマチュアだから、あるいは選手強化のためだから、何をしてもいいと考えたとしたら、はなはだしい思い上がりである。自分の趣味としてだけサッカーをやるのなら、入場料をとったり、テレビの権利金をとったりできるはずがない。
現代の社会では、一流のスポーツ・チームや、選手の行動には、大きな社会的責任がともなっていることを知るべきである。
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